橘川幸夫『ロッキング・オンの時代』



 橘川幸夫著『ロッキング・オンの時代』(晶文社/1728円)読了。

 1972年、渋谷陽一らとともにロック雑誌『ロッキング・オン』を創刊した著者が、創刊からの約10年間の舞台裏を綴った書。

 私自身が『ロッキング・オン』を読むようになったのは1979年のことで(いまはもう読んでいない)、創刊当時のことは「伝説」としてしか知らない。が、私が読み始めたころの同誌には、草創期の青臭さ・文学臭がまだ濃厚に残っていた。普通の商業ロック誌でしかない現在の「ロキノン」とは別物なのだ。

 少年時代に毎月買っては貪るように読んでいた、あのころの『ロッキング・オン』の空気感が本書にも濃密に流れていて、懐かしくなった。

 創刊当時の著者や渋谷は、まだ大学生。出版界の常識も何も知らないまま、試行錯誤の連続で新しいメディアを創り上げていくプロセスが、読んでいてすがすがしい。

 今の学生であれば、世の中の仕組みをそれなりに理解しているから、いろいろ始める前に事業計画を立てたり、出資を募ったりすることもあるのだろう。当時は、そんなことを考える学生はいなかった。まずやりたいものを作る。あとは、成り行きで動いていくしかない。



 当時のことは、渋谷の著書『音楽が終わった後に』でも章を割いて綴られていたが、橘川の視点から見るとまた違う景色が見えてくる。

 『ロッキング・オン』という一雑誌の歴史であると同時に、「ロックがいちばん熱かった時代、70年代カウンターカルチャーの息吹を伝えるノンフィクション」(版元の惹句)として、読み応えのある一冊。

 橘川は、読者からの投稿のみで成り立っていた「全面投稿雑誌」『ポンプ』の創刊者でもある。
 本書には、ソーシャルメディアの源流のような雑誌『ポンプ』の、草創期の舞台裏も綴られている。無名時代の岡崎京子(『ポンプ』にイラストを投稿していた)との思い出などは、大変興味深い。

 「参加型メディア」は今では「CGM(Consumer Generated Media)」と呼ばれ、一般的になったが、「参加型メディア」という言葉を使ったのは僕がはじめてだと思う。当時、言葉もなかったし、そういうコンセプトでメディアに向かっていた人は、他に知らない。


 
 ……と書いているとおり、橘川のメディアの未来を見通す慧眼は群を抜いていたと思う。

 これはうろ覚えで書くので細部は違っているかもしれないが、80年代初頭の『ロッキング・オン』で、橘川が打ち出した「ファクシミリ・マガジン」なるコンセプトに対し、渋谷陽一が批判をしていた。
 「ファクシミリ・マガジン」とは、“既成の雑誌の好きなページだけを読者が選んで買い、ファクスで送ってもらい、自分だけの一冊を作れる雑誌”……というアイデアだったと思う。
 それに対して渋谷は、「そういう“足し算の発想”ってダメだと思う」「いまあるもので間に合わせられるものって、けっきょく大したことはないんだ」などと批判したのだ。 

 だが、現時点から振り返れば、橘川の発想のほうが、ネット時代のメディアのありようを正確に予見していた。
 「note」のように欲しいコンテンツのみを個別に買ったり、好きなウェブページのみをブックマークして読んだりするという、いまではあたりまえのメディア享受の姿勢は、「ファクシミリ・マガジン」の発想そのものだ。
 ネットなど影も形もないころから、ネット時代のメディアを見通していた橘川の慧眼畏るべしである。

■関連エントリ→ 篠原章『日本ロック雑誌クロニクル』

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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