『ハドソン川の奇跡』



 クリント・イーストウッド監督の『ハドソン川の奇跡』を、映像配信で観た。
 2009年に起きた「USエアウェイズ1549便不時着水事故」を、乗客155人の命を救ったサレンバーガー機長(彼の愛称「サリー」が映画の原題)を主人公に描いている。

 ヘタに大作にせず、96分の小品にまとめているところがよい。贅肉を削ぎ落とした、無駄のない映画だ。

 「映画も作戦も100分で終わるべきだ。それ以上はケツが痛い」
 ――矢作俊彦・司城志朗の名作『ブロードウェイの戦車』の主人公(傭兵隊長)・ジョウの名セリフである。
 すぐに2時間半超の大作にしたがる監督は、イーストウッドのサービス精神(「観客にいらざる負担をかけない」という意味のサービス精神)を見習うべきだ。

 絶体絶命の危機に際して冷静沈着に行動し、危機のさなかでもジョークを飛ばしたりすること――それはハリウッド映画がくり返し描いてきた、“アメリカ的男らしさ”の核だ。本作はまさに、そのような男らしさを描いた映画である。

 イーストウッドとしては、機長をストレートに「英雄」として描きたかったところだろう。また、これが1950年代の映画なら、機長は100%の英雄として描かれたに違いない。
 しかし、いまどきのハリウッドで実話を映画化する場合、それほど単純なつくりにはできないのだろう。

 映画は、「不時着がほんとうに必要だったのか? 他の空港への着陸が可能だったのではないか?」と疑う「国家運輸安全委員会」の官僚たちと、機長らとの“戦い”をストーリーの軸にしている。
 事故調査の過程で、ネチネチと意地悪く(観客にはそう映る)、「機長の判断ミス」という結論に持っていこうとする官僚たち。しかし、最後には彼らも機長の判断が正しかったと認める。
 ……そのような“面倒な手続き”を経ないと、機長を英雄として描くことはできなかったのだろう。

 アメリカという国の嫌な部分を象徴する官僚たちがスパイスの役割を果たすことで、結果的に見事な「アメリカ万歳」映画になっている。ひとひねりした愛国映画というべきか。

 不時着に至るプロセスの緊迫感、上空から見るニューヨークの街並みの美しさなど、見どころも多い。
 シンプルな実話を題材に、きっちり楽しめる映画にするあたり、さすがイーストウッドだ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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