松任谷正隆『僕の音楽キャリア全部話します』



 松任谷正隆著『僕の音楽キャリア全部話します――1971/Takuro Yoshida▶2016/Yumi Matsutoya』(新潮社/1512円)読了。

 松任谷由実の伴侶にして、日本を代表するアレンジャーの一人である著者が、自らの45年に及ぶ音楽キャリアを語り下ろした本。
 インタビュー/構成は、著者と親しい音楽ライター・神館(こうだて)和典が担当している。

 当然、ユーミンとの共同作業(アルバム作り、コンサート・プロデュースなど)が話の中心になる。
 私はユーミンに思い入れがないので、その分つまらないかな、と危惧したのだが、十分面白く読めた。ユーミン以外のアーティストとの仕事の話もたくさん出てくるし、個人史がそのままJ-POP史になるような立ち位置の人だからである。

 考えてみれば、私は少年時代に、著者がDJをしていたNHK-FMの番組「サウンドストリート」をよく聴いていたし(著者の担当は月曜日だったか)、彼がそこでかけた曲を通じて音楽の好みが広がった部分もある。その意味ではわりと近しい存在なのだ。

 意外な裏話満載。たとえば――。

 私は著者の唯一のソロアルバム『夜の旅人』(1975年)が大好きで、ジャパニーズAORの名盤だと思っているが、意外にもあのアルバムは契約消化のために渋々作ったもので、「一時期は恥ずかしくて、廃盤にしてくれと、僕自身がレコード会社に頼んでいたほど」不本意な面があったのだという。

 また、ユーミンのアルバムがいちばん売れていた時期は、じつは著者が音楽作りに悩み、悪戦苦闘していた時期なのだという。次のような赤裸々な一節がある。

 由実さんのアルバムでは『ダイアモンドダストが消えぬまに』から五枚、組んではいけない人と一緒に音楽制作をしてしまいました。シンクラヴィアのプログラマーです。



 人間というのは、売れ始めると、その喜びよりも、落ちる怖さに意識がいくものです。だから『LOVE WARS』あたりは生きた心地がしなかった。



 ほかにも、「松任谷由実」として初(つまり結婚後初)のアルバム『紅雀』が受けた酷評に悩んだことなど、「成功の頂点にあるように見える人にも、やはり苦悩はあるのだなァ」と感慨深いくだりが多い。
 
 ユーミンの好きな人なら必読の一冊だろう。

■関連エントリ→ 井上鑑『僕の音、僕の庭――鑑式音楽アレンジ論』

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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