小谷野敦『文章読本X』



 小谷野敦著『文章読本X』(中央公論新社/1620円)読了。

 過去の『文章読本』の多くは、“名文家として知られる小説家が「名文の極意」を説く本”であった。それに対して、本書は「はじめに」に、次のように記してある。

 ここでは、名文を書く方法について記そうとしているのではない。むしろ、伝えるべきことを正しく伝えようとすると、悪文になりやすい、ということを言い、そのような悪文を勧めようとしているのである。
(中略)
 (本書を書こうと思った理由の)第三は、世間には依然として「名文信仰」があり、これが有害だと感じるようになったからである。文章にとって何より必要なのは、論理的で、正確であることであり、美しいかどうかはまったく二の次だと、私は考えている。



 実用文を上手に書くための「文章術本」も世にたくさんあるわけだが、本書で俎上に載る文章の大半は作家・評論家のものであり、フィールドとしては過去の『文章読本』と同じだ。
 それでいて、「名文信仰」から自由となった立場で書かれた、新機軸の『文章読本』なのである。

 前にも当ブログに書いたことがあるが、私が駆け出しライターだったころ、年長の編集者から言われた次の言葉が、強く心に残った。

「ライターは、名文を書こうなんて思わなくていいんだよ。名文なんてのは事故みたいなもんだからさ。普通に読める文章を書いてくれればそれでいいんだ」

 ゆえに、“名文であることより、論理的で正確であることのほうが、はるかに重要だ”という本書の主張に、深く同意する。

 内容にも、卓見や微苦笑を誘うホンネの主張が多く、読む価値がある。

 たとえば、“「文章をよくする要諦は削ることだ」というのはそのとおりだが、「商売上の理由で長くしてある小説や学術書というのは結構ある」”――との指摘。

 小説であれば、削ると短編になってしまう。しかし短編ばかり書いていても、作家の生計が成り立たないので、ふくらませて長編にするということが少なくないのである。



 また、よい文章を書くための訓練として、「小説や映画のあらすじを書くこと」を勧めているのは、なるほどと思った。

 著者の持ち味である戦闘的毒舌も、名文家と見做されることの多い大家の文章をくさす箇所に、いかんなく発揮されている。

■関連エントリ→ 村田喜代子『名文を書かない文章講座』

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
25位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
19位
アクセスランキングを見る>>