薬師丸ひろ子『Cinema Songs』



 薬師丸ひろ子のニューアルバム『Cinema Songs』(ビクターエンタテインメント/3240円)を聴いた。

 ちょうど3年前に出た前作『時の扉』の延長線上にあるアルバムだ。『時の扉』でアレンジを担当した吉俣良が、今回も大半の曲をアレンジしている。

 『Cinema Songs』というタイトルどおり、内外の映画主題歌・挿入歌、またはテーマ曲に歌詞をつけた曲を集めたカヴァー・アルバムである。

 洋画の主題歌・挿入曲は、訳詞で歌っているものと、元の英語詞で歌っているものが半々の割合(4曲ずつ)。比べてみれば、訳詞で歌ったもののほうがはるかに出来がよい。
 英語の発音がよくない。そもそも、一つひとつの言葉をはっきり区切って発声する薬師丸ひろ子の歌い方には、英詞の歌は決定的に「合わない」のだと思う。8曲すべて訳詞で歌えばよかったのに……。
 
 日本人シンガーによる洋楽カヴァー集でも、今年出た小坂忠の傑作『Chu Kosaka Covers』や、シングライクトーキングの佐藤竹善の『CORNERSTONES』シリーズのように、日本人が歌っていることを意識させないほど、発音も歌も見事なものもある。
 薬師丸ひろ子は、彼らと同じ土俵で勝負すべきではなかったのだ。

 ……と、ケチをつけてしまったが、吉俣良の上品なアレンジは今回も絶品だし、日本語で歌っている曲はどれも素晴らしい(バーブラ・ストライサンドの「追憶」の日本語詞カヴァーが、とくによい)。心洗われる。

 アルバム全体のクライマックスは、自らの映画デビュー作『野生の証明』(1978年)の主題歌「戦士の休息」をカヴァーしているところ。

 「いかにも角川映画らしい角川映画」であった『野生の証明』は、いま観るとストーリーが荒唐無稽すぎて失笑もので、B級映画、もしくは「底抜け超大作」という以外にない。
 だがそれでも、そこに刻みつけられた13歳の薬師丸ひろ子の輝きは“天使級”であり、我々長年のファンには忘れがたい作品・主題歌なのだ。

 原曲のヴォーカルは町田義人。「男は誰もみな 無口な兵士」という(明らかに主演の高倉健を意識した)「男の歌」を、薬師丸の澄んだハイトーンの声で歌い上げるところは、なかなか感動的である。

 これは私の持論なのだが、元々が男性ヴォーカルである曲を女性シンガーがカヴァーすると、名カヴァーになる率が高い。
 スザンナ・ホフスによるロッド・スチュワートの「マギー・メイ」のカヴァー、鈴木祥子による岡村靖幸の「イケナイコトカイ」のカヴァーなど、その例は枚挙にいとまがない。
 薬師丸の角川時代の盟友・原田知世が、今年、やはりカヴァー・アルバム『恋愛小説2~若葉のころ』を発表したが、70年代J-ポップ名曲集である同作でも、原田真二の「キャンディ」のカヴァーがいちばんよかった。

 本作のラストに収められているのは、「セーラー服と機関銃」のセルフカヴァー。
 ボーナストラック扱いになっているとおり、オマケ的なもので、全体の流れから浮いている。この曲だけアレンジャーが別で、原曲よりややロック色を強めた感じ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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