『この世界の片隅に』



 今日は、取材で八王子へ――。
 その帰途、立川シネマシティに寄って、『この世界の片隅に』を観た。



 言わずと知れた、各界絶賛の話題作である。
 町山智浩が本年度ベスト1に挙げ、ライムスター宇多丸も「おそらく日本映画史に残る大傑作」「5千億点!」と大絶賛。斎藤環に至っては、「人類の作り上げてきた映像文化史上、最高の作品のひとつ」とまで言っている。
 宇多丸や斎藤環の言葉はさすがに過大評価だという気がするが、大変な傑作であることはたしか。

 私はこうの史代の原作も好きだし、名作だと思うが、このアニメ版は原作を超えていると思う。
 遊郭の娼妓・リンと周作の関係を描く場面が割愛されているなど、ごく一部にアレンジが加えられているほかは、原作に忠実なストーリー展開。それでも、原作以上に胸に迫るシーンがたくさんあった。
 たとえば、すずが空襲の中でシラサギを追う場面や、すず・周作夫妻と母を被爆で亡くした孤児との出会いのシークエンスでは、その美しさ・哀切さ・迫力に鳥肌が立った。

 戦時中の広島や呉の街や自然が、隅々まで丁寧な作画によって見事な質感で表現されており、圧倒される。

 徹頭徹尾、「銃後」の視点・庶民の視点・日常生活の視点から描かれた戦争――。
 我々戦争を知らない世代(そもそも、原作者も監督も「戦争を知らない世代」だが)に、これほど戦争を日常の延長にあるものとして「実感」させ得た日本映画は、幾多の実写戦争映画の中にもなかったのではないか。 

 かつて野坂昭如は、自らの小説を高畑勲がアニメ化した『火垂るの墓』を観て、「アニメ恐るべし」と書いた。こうの史代も、この映画を観て同じように思ったのではないか。私も、本作を観て「アニメ恐るべし」と思った。

 なお、原作についてのネットで読めるレビューの中では、ネット界屈指のマンガ読み巧者である「漫棚通信ブログ版」さんのものがベストだと思う。なんと深い読み解きであることか。
 原作を読んでからこれを読み、その後にアニメ映画版を観ると、いっそう深く味わえるはずだ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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