デイヴィッド・J・リンデン『触れることの科学』



 一昨日から昨日にかけて、取材で佐賀県へ――。

 観光する余裕はなかったが、夜には居酒屋で地の魚を食べて“観光気分”だけ味わった。
 刺身類はおいしかったが、ムツゴロウの丸焼きというのはマズかった。小骨が多くて食べにくいし。まあ、話のタネにはなったけど……。

 昨日は佐賀から戻ってきて、夕方にまた都内某所で別件の取材。バタバタ忙しい。

 行き帰りの飛行機と電車で、デイヴィッド・J・リンデン著、岩坂彰訳『触れることの科学――なぜ感じるのか どう感じるのか』(河出書房新社/1944円)を読了。

 著者は神経科学者(米ジョンズ・ホプキンス大学医学部教授)だが、本書のような一般向け科学書もものしている。前著『快感回路――なぜ気持ちいいのか なぜやめられないのか』は、当ブログでも取り上げた。

 本書も『快感回路』同様、品のよいユーモアをちりばめた良質な科学ノンフィクションだ。
 テーマである触覚(皮膚感覚)は性的快感と深く結びついているし、本書にもセックスに関する話題がわりと多いから、『快感回路』の続編というか、スピンオフ本的な内容と言える。

 触覚の作用機序についての説明部分は専門的すぎてやや退屈だが、面白いエピソード、トピックが満載だ。
 たとえば――。

 私たちの皮膚には「C触覚線維」という、なでられて心地よい感覚のための神経――すなわち「愛撫専用の触覚系」がある。
 この触覚系に対して優しくなでる刺激がもたらされることは、「新生児の情緒の適切な発達のために欠かせないものであり、このシステムが形成する社会的接触は、成長後に信頼関係や協調関係を築くために重要な役割を果たす」という。
 赤ちゃんに対するスキンシップがいかに重要であるかを、この「C触覚線維」が証し立てているわけだ。

 広義の触覚――熱さや冷たさの知覚、痛覚、かゆみの感覚、くすぐったさなど――についても詳述されており、それぞれじつに興味深い内容になっている。例を挙げよう。

 鳥は平気でトウガラシを食べる。トウガラシの刺激成分カプサイシンに反応するセンサーを、持っていないからだ。
 ゆえに、バードウォッチャーは鳥の餌をリスなどの哺乳類に盗み食いされないよう、餌にする種にトウガラシをふりかけておく。
 ではなぜ、鳥だけがトウガラシの辛さに反応しない動物になったのか? その謎解きは次のようなものだ。

 哺乳類は種を食べると臼歯ですりつぶしてしまいがちだが、鳥には臼歯がなく、種子の大半はそのまま消化器官を通り抜ける。鳥が糞をすると、これまでとは違う場所に発芽可能な種子を蒔いていくことになる。鳥にとってもトウガラシにとっても都合のよい状況である。



 思わず人に語りたくなるような話ではないか。 

 また、生まれつき痛みを感じない「無痛症」についての、次のような記述にはぞっとさせられた。

 痛みを感じなければ、さぞのんびり暮らせるだろうと思われるかもしれないが、現実はそういうものではない。痛みというのは、組織にダメージを与えるような刺激への反応として生じる。痛みがなければ、刃物や熱湯や有害な化学物質を避けることも学べない。先天性の無痛症の人は常時けがをしている。知らないうちに自分で舌を噛み、骨を折り、関節をすり減らし、ゴミの入った目をこすって角膜を傷つける。成人になるまで生きている者は少ない。

 

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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