南勝久『ザ・ファブル』



 〈「青海」と「青梅」、駅間違えてライブ間に合わず〉という記事を見て、身につまされた。私も駆け出しのころ、川口と川越を間違えて取材に1時間以上遅れたことがある。
 昔はメールがなくて、待ち合わせ場所も電話で聞いてメモるだけだったから、そういう失敗がありがちだったのだ。


 最近気に入って、コミックスの新刊が出るたび買っているのが、南勝久の『ザ・ファブル』(『ヤングマガジン』連載中)。「ヤンマガ」はヤンキー系マンガが多く、私には縁遠いマンガ誌だが、まれにツボにはまる連載もある。

 てゆーか、南勝久のマンガ家としてのセンスが好きなのだな。
 彼の代表作『ナニワトモアレ』は関西の「走り屋」たちの物語で、私にはビタイチ縁のない世界が描かれていたが、にもかかわらず私にも面白かったし。

 『ザ・ファブル』は、「ファブル(寓話)」という通り名で知られる天才的な殺し屋の物語。
 ……というと、『ゴルゴ13』の亜流のようなハードボイルド・アクションを思い浮かべるかもしれないが、全然違う。殺し屋がボスから「今年は仕事をしすぎた(殺しすぎた)から、1年間休め」と命じられ、大阪で一般人として暮らす物語なのだ。

 殺人技術とサバイバル技術は卓越しているが、生活常識がポッカリ欠落している殺し屋が、頑張って普通の日常に溶け込もうとする。そのときに起きるさまざまな不協和音が、笑いとスリルを生む。そう、これは他に類を見ない“殺し屋アクション・コメディ”なのである。→第1話試し読み

 前に当ブログで取り上げた新機軸のヤクザマンガ『ドンケツ』に、タイプとしては近い。

 『ザ・ファブル』はヤクザマンガというわけではないが、ヤクザもたくさん出てくる。大阪で暮らすにあたって、一般人としての生活を邪魔しないでもらうよう、街を仕切るヤクザの組に話を通してある、という設定だからだ。
 「干渉しない」という約束なのに、伝説の殺し屋であるため、ちょっかいを出してくるヤクザもいる。そこからまたドラマが生まれる。

 『ドンケツ』も『ザ・ファブル』も、ヤクザ社会・裏社会のディテール描写は非常にリアルだが、キャラやストーリー展開にマンガ的な飛躍があり、その飛躍が笑いを誘う。そこが共通項である。

 いまどきの目の肥えたマンガ読者は、細部にリアリティがなければ受け付けない。さりとて、ただリアルであればよいというものではない。マンガには、マンガならではの飛躍――ぶっ飛んだ設定や展開、突出したキャラなど――が絶対不可欠なのだ。『ドンケツ』と『ザ・ファブル』は、細部のリアリティと良質な「マンガ的飛躍」を兼備しており、だからこそ傑作たり得ている。

 とくに『ザ・ファブル』は、これほど先の展開が読めないマンガも珍しく、一度ハマったら読むのをやめられない面白さがある。
 「1年間限定の一般人生活」という縛りがあるから大長編にはならないだろうが、最後までこのクオリティを保ってほしい。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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