アマルティア・セン『インドから考える』



 昨日は取材で京都へ(日帰り)――。
 「せっかく京都に行くのだから、少しは観光っぽいこともしなければもったいない」という“ケチのスピリット”を発揮し、朝6時に家を出て取材前に少し観光。
 京都国立近代美術館と京都市美術館を観て、ついでに平安神宮にも入ってみた(3つはそれぞれ隣接している)。

 京都国立近代美術館では「メアリー・カサット展 」をやっていて、けっこうよかった。母と子の絵を描きつづけた、19世紀後半から20世紀前半の印象派画家(アメリカ出身だが、活躍したのはフランス)である。

 私は美術には門外漢だが、それでも最近、取材の合間などに時間が空くと、なるべく美術館に入ってみるようにしている。わからないなりに、よい美術を鑑賞すると心洗われる思いがするのだ。


 行き帰りの新幹線で、アマルティア・セン著、山形浩生訳『インドから考える――子どもたちが微笑む世界へ』(NTT出版/2592円)を読了。書評用読書。

 アマルティア・センは言わずと知れた世界的経済学者だが、これは彼には珍しいエッセイ集だ。センの著作の中では異彩を放っていた『議論好きなインド人』と、同傾向の本。
 エッセイといっても、日々のよしなしごとを筆の赴くままに綴るようなものではなく、政治・経済・歴史・教育などをテーマとしたお堅い内容。それでも、センの論文系著作の難解さに比べたら、はるかに読みやすい。

 女神との問答形式で現代インドの問題点を綴った「一日一願を一週間」というエッセイなど、読者の笑いを誘うギャグが盛り込まれていて(あまり笑えなかったが)、センの意外にお茶目な一面を垣間見られる。

 邦題が『インドから考える』となっているように、インド社会が抱えるさまざまな病根をえぐるエッセイが多いのだが、日本人でもセンの思想に興味がある人なら面白く読めるだろう。

 インドの詩聖タゴールについて綴った「タゴールのもたらすちがいとは何か?」に、最も強い印象を受けた。
 センは、少年時代にタゴールが創立した学校で学んだ。「永遠に生きる人」を意味する「アマルティア」という名も、タゴールが名付け親だという。そのように深い縁をもつセンならではの、出色のタゴール論である。

 また、「人間の安全保障」や「開発なき成長」といった、センの思想の重要概念についてわかりやすく説いたエッセイもあり、「アマルティア・セン入門」としても格好の一冊だ。

 センの邦訳著作のうち、最初に読むべきは講演集ゆえに平明な『人間の安全保障』と『貧困の克服』(いずれも集英社新書)だろうが、これはその次に手を伸ばすべき本と言えそうだ。

■関連エントリ
アマルティア・セン『議論好きなインド人』
アマルティア・セン『人間の安全保障』
『安全保障の今日的課題』

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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