リチャード・ワイズマン『よく眠るための科学が教える10の秘密』



 リチャード・ワイズマン著、木村博江訳『よく眠るための科学が教える10の秘密』(文藝春秋/1620円)読了。
 英国の心理学者が、自らが「夜驚症」(睡眠障害の一種)を克服した体験を機に睡眠の科学を学び、その成果をまとめた本。

 邦題の印象から、「熟睡のための科学的方法を説く実用書」を期待して手に取る人が多いだろう。
 実用書としての側面もあるし、熟睡のノウハウをまとめた章もあるのだが、それだけではなく、もっと幅広い「睡眠学入門」というべき内容である(原題は、“Night School: Wake up to the power of sleep” )。
 たとえば、後半は夢をめぐる科学的考察が中心であり、「明晰夢」を見るためのコツに一章が割かれていたりする。

 そういう本であることを承知のうえで読めば、大変面白い。

 質のよい、十分な睡眠が心身の健康にとってどれほど大切であるかが、データやエピソードをふまえてくり返し強調される。
 断眠競争(どれだけ長時間眠らずにいられるか)に勝った人が、それを機に人格が変容してしまい、人生を台無しにした、というエピソードにゾッとした。
 断眠の危険性がわかったことから、『ギネスブック』の「不眠の最長記録」のカテゴリーは削除されたという。

 そういえば、以前精神科医を取材したときに、こんな話を聞いた。

「診察の際、患者さんには『よく眠れていますか?』と必ず聞きます。ちゃんと眠れてさえいれば、心の病気があってもわりと大丈夫なものなのです。逆に、『最近、よく眠れなくて』というのは危険な徴候です」



 私自身は、眠りすぎて困ったこと(仕事的に)は多々あるが、眠れなくて困ったことは一度もない。いつなんどき、どこででも眠れるし、眠るのも夢を見るのも大好きである。これは、わりとよいことなのだな。

 現代人は食欲や性欲の飽くなき追求に余念がないのに、三大欲求のうち睡眠欲だけは、ひどくおざなりに扱われている。
 さまざまな社会的条件から、睡眠時間は世界的に減少傾向にあるという。

 一九六◯年にアメリカで百万人以上を対象にした調査では、大多数の人が毎晩八時間から九時間眠ると答えている。二◯◯◯年前後にアメリカ国立睡眠財団その他の組織が行った調査結果では、睡眠時間は七時間に落ちた。二◯◯六年に医学研究所は、アメリカで慢性睡眠障害の人の数を、およそ六千万人と推定した。そして最近の調査結果によると、アメリカ人の三分の一は睡眠時間が七時間以下である。



 睡眠の質の向上は、国家的・文明的課題といえよう。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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