斉木香津『火星の宝石湾』



 斉木香津著『火星の宝石湾』を読んだ。AmazonのKindleUnlimitedに入っていて、無料で読めたので。

 多数の作品を持つ推理作家である著者が、デビュー前に書いたという中編小説。そのわりには文章もこなれていて、読みやすい(加筆修正もしたらしいが)。
 SFのようなタイトルだが、現代日本を舞台にした、青春小説といってよい作品である。

 ラストに、推理作家らしいどんでん返しが仕掛けられている。ただ、私はそのどんでん返しに疑問を感じた。
 疑問を述べるために、以下、あえてネタバレする。




 この作品は、主人公アミが自分の高校時代を回想する形式で書かれている。倉庫で働くアミの現在の年齢は記されないまま進むが、読んでいる印象では20代くらいのイメージである。

 ところが、ラストに至って、現在(2016年)のアミがじつは65歳である、ということが明かされるのだ。
 それが作者の仕掛けた「どんでん返し」なのだが、驚いて最初のページから読み返すと、この設定は明らかに不自然である。高校時代のアミの生活の中に、ファストフード店や自販機の缶ジュースなどが出てくるからだ。

 「学校を辞めた次の年」に大阪の万博(1970年)が開催されたという記述があるから、アミの高校時代はまだ1960年代ということになる。そのころの日本には、ファストフード店も缶ジュースの自販機もなかったか、あっても一般的ではなかったはず。

 さすがにケータイやパソコンまでは出てこないが、それでも、アミの高校時代はおよそ60年代らしからぬ描かれ方をしている。
 アンフェアなミスリーディングとまでは言わないが、設定の詰めが甘い。だからこそ、これまで世に出なかった作品なのだろうが……。

 アミやその親友となるサキの人物造形などは、よくできている。ある事件を経て、2人が別々の道を歩み始めるあたりの展開も面白い。
 ヘタにミステリー仕立てにせず、素直にフツーの青春小説として書いていれば、少女同士の友情とその終焉を切なく描いた佳編になったのではないか。高樹のぶ子の名作『光抱く友よ』のように。

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コメント

Re: No title
うわ~、ご本人様降臨。
エラソーなことを書いてすみません。

ラストに覚えた違和感を除けば、大変面白く読めました。
斉木さんのほかの御作も、読んでみますね。


> はじめまして、「火星の宝石湾」を書いた斉木香津と申します。ご指摘ありがとうございます。缶ジュースをジュースと書き直したつもりが、一箇所だけで、もう一箇所がそのままになっていました。ファストフード店は見落としていました。さっそく修正しました。ありがとうございます。
  • 2016-09-01│09:49 |
  • 前原政之  URL│
  • [edit]
No title
はじめまして、「火星の宝石湾」を書いた斉木香津と申します。ご指摘ありがとうございます。缶ジュースをジュースと書き直したつもりが、一箇所だけで、もう一箇所がそのままになっていました。ファストフード店は見落としていました。さっそく修正しました。ありがとうございます。
  • 2016-08-31│15:10 |
  • 斉木 香津 URL│
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Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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