岩岡千景『セーラー服の歌人 鳥居』



 岩岡千景著『セーラー服の歌人 鳥居――拾った新聞で字を覚えたホームレス少女の物語』(KADOKAWA/アスキー・メディアワークス)読了。

 本書と同時に第一歌集『キリンの子』を上梓し、マスコミにも多数取り上げられている話題の歌人・鳥居の半生をたどったノンフィクションである。著者は『中日新聞』の記者。

 小学5年のときに目の前で母に自殺され、その後に保護された児童養護施設ではひどい虐待を受け、ホームレス生活を経験し……といった壮絶な半生を、著者は克明に追う。

 この手の本では、著者が「いかに悲惨な体験をどぎつく書いて、読者の目を引くか」しか考えていないようなものも散見する。

 たとえば、「女性の貧困」をテーマに底辺風俗を取材にくる記者の中には、「いまの子、普通すぎるのでちょっと……。もっと悲惨な子はいませんか?」と店側に要望するような者もいるらしい。その場合、取材対象者は「読者受けするキワドイ話のための素材」でしかないわけだ。

 それに対して、2人の娘をもつ40代シングルマザーである著者は、“母の目線”で鳥居を見ている。彼女を見世物にするのではなく、一人の表現者としてきちんととらえようとする視点が感じられるのだ。その点が好ましい。

 胸を打つのは、過酷な体験をしてきたサバイバーである鳥居が、短歌と出合ったことによって「生きる力」を得たという事実である。

「芸術は、私にとっては贅沢品でも嗜好品でもなく、生きるために必要なもので――食費を削っても……実際、3日に1食で暮らしていた時でも、私は美術館や図書館に行くほうを選びました」

 

 文学の力、文学がもたらす「救い」について考えさせられる一冊。
 彼女の表現者としての歩みは、ちょっと柳美里さんを思わせる。どこかの雑誌で2人の対談をやったらいいと思う。 



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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