西村賢太『痴者の食卓』



 西村賢太著『痴者の食卓』(新潮社/1404円)読了。

 昨夏に刊行されたものだが、いまごろ読んだ。
 6編を収めた短編集。そのうち5編までが、いつもの「秋恵もの」。
 
 残り1編の「夢魔去りぬ」は、テレビ番組の企画で自分の母校(小学校)を訪問した顛末を綴ったもの。
 現在構想中らしい、自らの父親を描く長編の前準備にあたる作品のようだ。が、これだけを読んでも落語のまくらだけ聞かされるようなもので、とくに面白くない。

 5編ある「秋恵もの」も、全体に低調な印象。
 クライマックスで貫多が癇癪を爆発させ、DVに走るという構成は相変わらずだが、いつものユーモアは影を潜め、ただただ陰惨で後味の悪い“最低男小説”に堕してしまっている。

 「西村賢太の作品は、元々陰惨で後味の悪い“最低男小説”ではないか」と思う向きもあろうが、そうではない。『小銭を数える』あたりの作品は、最低男のDVを描きながらも、笑いがあり、不思議な哀切があったのだ。
 
 本書所収の「下水に流した感傷」は、『小銭を数える』所収の傑作「焼却炉行き赤ん坊」の直後の出来事が描かれたものだ。しかし、2作を読み比べてみると、「下水に流した感傷」のほうがガクッと作品のボルテージが落ちている。

 ネタを小出しにしてきた「秋恵もの」も、いよいよ限界だな――そう思わせる、過渡期の一冊。

 私は西村賢太の短編では、デビュー作「けがれなき酒のへど」がいちばん好きだ。あの作品のように、風俗行脚から生まれたエピソードを短編にしたほうが、まだしも面白いのではないか。

 もっとも、「けがれなき酒のへど」は、お気に入りのソープ嬢に大金をだまし取られた顛末を描いたものだから、いかな賢太といえども、あれほどドラマティックな体験はほかにないのかもしれないが……。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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