中島京子『小さいおうち』



 中島京子著『小さいおうち』(文春文庫/626円)読了。
 先日観た映画版(山田洋次監督)がよかったので、原作を読んでみた。2010年上期の直木賞受賞作。

 映画は、原作に比べてさまざまなアレンジが施されている。
 たとえば、重要な登場人物・板倉正司は、原作では戦後にマンガ家になる(そのマンガ家像は水木しげるがモデルだと思われる)のだが、映画では画家に変えられている。

 それらのアレンジは、おおむね成功している。「長編小説を約2時間の映画に収めるためには、こうするしかないだろう」と思わせる、見事な潤色だ。

 ただ、原作を読んでみると、映画では抜け落ちている魅力も少なくないことがわかる。

 第一に、原作は上品な笑いをちりばめたユーモア小説でもあるのだが、映画版はその要素が希薄で、山田洋次らしい湿っぽい人情話の色合いが強まっている(もっとも、山田もかつてはモダンな喜劇映画の作り手だったのだが)。

 第二に、原作では女中のタキが作る料理などが細かく描写されており、昭和初期の食文化を伝える風俗小説としての色合いも強いのだが、映画ではそのへんが端折られている。食事のディテールまで映画で描くわけにはいかないから、仕方ないのだが。

 第三に、原作ではタキが「奥様」の時子に同性愛感情を向けていたことがほのめかされるが、映画ではその要素がバッサリ削ぎ落とされている。“健全なる庶民派作家”たる山田洋次としては、あまりそのへんに立ち入りたくなかったというところか。
 中嶋朋子が演じた睦子(時子の女学校時代からの親友)は、その「ほのめかし」をする重要キャラだが、映画での描き方は「この人物、べつに必要なくね?」という感じの軽~い扱いになっている。ここだけは、映画版の大きな瑕疵だと思った。

 とはいえ、原作も映画もとてもよい作品である。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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