高橋順子・佐藤秀明『恋の名前』



 高橋順子・佐藤秀明著『恋の名前』(小学館/2592円)読了。

 詩人・高橋順子と写真家・佐藤秀明のコンビによるワンテーマ歳時記――「まほろば歳時記」シリーズの第4弾。
 これまでに出た『雨の名前』『風の名前』『花の名前』は、いずれもロングセラーとなり版を重ねている。
 
 本書は、詩歌や小説などに登場する恋にまつわる言葉を集め、解説をつけた“恋の歳時記”である。
 オールカラーで、佐藤秀明による美しい写真が全編を彩る。

 合間に、古今の歌人・俳人が実人生で経験した恋を小説仕立てで描いた「恋の私がたり」(見開き2ページの短いもの)が、11編収められている。これもなかなか読ませる内容だ。高橋順子は本格的に小説を書いたらよいと思う。

 高橋さんは昨年、伴侶の小説家・車谷長吉を亡くされたばかり。本書を書き進めながら、亡夫との恋の日々を思い出さずにおれなかったことだろう。そう思うと切ない。

■関連エントリ→ 高橋順子『けったいな連れ合い』

 本書を読んで改めて思うのは、日本の「恋の文化」の豊穣さ、裾野の広さである。恋を語り、綴るための日本語の、なんと多彩で豊かなこと。

 登場する、恋をめぐる美しい言葉の例を挙げる。

「春負(はるまけ)」――恋わずらいのこと。春は恋の季節だから、ということだろう。

「解語(かいご)の花」――超絶美人のこと。並外れて美しい女性を、「人の言葉を解する花」に喩えたのである。元は、唐の玄宗皇帝が楊貴妃を指して言った言葉。

「恋の瀬踏(せぶみ)」――相手に気があるのかどうか、確かめる行為。「瀬踏」とは、川に足を踏み入れて深さを確かめること。

 本書を読んで知った、メモしておきたいような知識もいくつか挙げる。

・中国語では、配偶者・恋人のことを「愛人(アイレン)」という。

・「相対死(あいたいじに)」――元禄時代、近松門左衛門らの世話浄瑠璃の影響で男女の心中が美化され、流行したことから、将軍吉宗は「心中」に代えてこの語を用いさせ、心中した男女の埋葬を禁ずるなどの禁令を出したという。
 いまの感覚だと、「相対死」のほうが美しい言葉に思える。

・「勿忘草」(忘れな草)の名は、恋人のために水辺のこの花を摘もうとして水に落ちた若者が、「僕を忘れないで」と言って水底に消えたという悲しい伝説に由来する。英名は「フォゲット・ミー・ノット」で、和名はそれを訳したもの。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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