橘玲『「読まなくてもいい本」の読書案内』



 橘玲(たちばな・あきら)著『「読まなくてもいい本」の読書案内――知の最前線を5日間で探検する』(筑摩書房/1728円)読了。

 このタイトルは、ちょっとひねりすぎ。「こんな本は読む価値がない!」と、名著の数々をバッサバッサ斬り捨てる内容を想像するだろうが、そうではない。
 副題の「知の最前線を5日間で探検する」のほうが、内容の的確な要約になっている。複雑系科学・進化論・ゲーム理論・脳科学・功利主義の5分野の概要と最前線を、手際よく紹介した概説書なのである。

 それがなぜ『「読まなくてもいい本」の読書案内』になるかというと、“複雑系科学などの長足の進歩による「知のビッグバン」が起きたあとでは、それ以前の古いパラダイムで書かれた本は読むに値しない”との主張が根幹になっているから。

 著者は科学者ではないから、進化論・脳科学・複雑系についての記述は、ありていに言って既成の科学書や論文の受け売りである。
 ただ、この著者は受け売りの仕方が抜群にうまく、受け売りであることを読者に意識させない。いわば、“洗練された受け売りのプロ”なのである。ホメているように聞こえないだろうが、100%の讃辞として“受け売りの達人”と呼びたい。

 全盛期の立花隆は、科学の最前線を手際よく読者に伝える優秀な「科学啓蒙家」であった。その役割を、本書によって同じタチバナ姓の著者(ちなみに、立花隆の本名は橘隆志)が受け継いだと言えそうだ。

 私は当初、本書を図書館で借りて読み、半分ほど読んだところで「これは手元に置いて何度も読み返したい」と思い、Amazonに注文した。
 「知の最前線」の的確な概説として、優れた内容だ。難しいことをわかりやすく説明する知的咀嚼力において、著者の力量は池上彰に匹敵する。

 ただ、「知のパラダイム」によって、哲学などの古典的教養がすべて陳腐化したかのように著者が言うのは、やや勇み足。古典的教養は、科学の進歩によって無価値になるほど薄っぺらいものではないはずだ。
 そのへん、大前研一の「古典的教養無用論」に通ずる底の浅さを感じてしまった。

■関連エントリ
橘玲『残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法』
橘玲『貧乏はお金持ち』
橘玲『バカが多いのには理由がある』

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時代遅れの権威は世にあふれてる:読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する

「読まなくてもいい本」の読書案内:知の最前線を5日間で探検する (単行本)作者: 橘 玲出版社/メーカー: 筑摩書房発売日: 2015/11/26メディア: 単行本(ソフトカバー) 最近の橘玲の集大成ともいえる本。 筆者は投資ネタを扱わなくなって、思想と科学の狭間についての本が多くなってきたのだけど、これを読めば近年の作品で言っていることの大半はカバーできる内容だ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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