森博嗣『作家の収支』



 森博嗣著『作家の収支』(幻冬舎新書/821円)読了。

 私は森博嗣の小説を一つも読んだことがないのだが、彼が自らの作家生活の舞台裏を明かした『小説家という職業』は読んだ。本書はその続編というか、より経済的側面に絞った“舞台裏明かし”の書。

 著作の部数とそこから得た印税、映像化された場合の原作料、雑誌連載の原稿料、講演料、取材謝礼など、作家として稼いだお金のすべてについて、具体的金額も含め、ビックリするほど赤裸々に明かしている。過去にも類書はあったが、ここまで赤裸々なものはなかった。その点だけでも、小説の好きな人なら一読の価値はある。

 同じ出版業界の片隅に身を置く私から見ると、出てくる数字のほとんどは「まあ、そんなもんだろうな」と感じる順当なものである。ただ、中には私でも驚いた話がある。たとえば――。

 ある清涼飲料水メーカーから小説の執筆を依頼されたことがあって、このときの原稿料はその1作で1000万円だった。その作品は本になって出版されたのだが、そのときの印税とは別にである。これは原稿料というよりも広告料と捉えるのが正しいかもしれない。



 とはいえ、本書に明かされているのは、ほぼなんの苦労もせず人気作家になった天才の特殊事例であって、一般作家志望者の参考になるようなものではない(「いつかはこういう立場に」という目標にはなる) 。作家志望者の99・9%は、そもそも森博嗣と同じ舞台に立つまでいかないのだから……。

 『小説家という職業』もそうだったが、本書も“勝ち組ならではの、無意識の勝ち組目線”でつらぬかれている。ゆえに、売れない作家や、売れない作家にすらなれない作家志望者が読むと、随所でカチンとくるだろう(笑)。

 それでも、「売れっ子作家ってどれくらい儲かるんだろう?」という下世話な好奇心を十二分に満たしてくれる読み物には違いない。

 柳美里さんの『貧乏の神様――芥川賞作家困窮生活記』は、小説家が赤裸々に生活の内情を明かした、という意味では本書の類書だが、2冊を併読するとあまりの落差にめまいがしそうになる。小説家とひとくちに言っても人生いろいろなのだ(むろん、どちらがいい・悪いではないが)。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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