宮下奈都『よろこびの歌』『誰かが足りない』



 宮下奈都著『よろこびの歌』(実業之日本社文庫)、『誰かが足りない』(双葉文庫)読了。

 著者インタビューの準備として、宮下さんの旧作を読んでみた。
 ほんとうは、作家にインタビューする場合には全作品を読んで臨みたいところ。なかなか時間的にそうもいかないので、「可能な範囲で旧作も読む」という準備をすることになる。

 『誰かが足りない』は、「本屋大賞」にもノミネートされた作品。同じ日に一つのレストランを訪れた6組の客――それぞれの物語が描かれた短編連作。
 当のレストランの描写がほとんどないという、凝った作り。そのレストランでどんなスタッフによってどんな料理が供されるのかは、読者の想像にまかされているのだ。

 6編中、私がいちばん気に入ったのは、認知症になった老齢の女性の心象風景を描いた「予約2」。次の一節が痛切だ。

 ときおり訪れる正気のたびごとに、私は夫の死を新しく知るのだ。それをいつか安らかに受け入れられるときが来るのだろうか。



 誰かとても大切な人を、私は思い出すことができなくなってしまっている。私には誰かが足りない。



 『よろこびの歌』は、青春音楽小説の傑作。
 新設女子高の1クラスの人間関係が、校内合唱コンクールを機に深まっていくプロセスを、6人の少女を1人ずつ主人公にした短編連作で描いている。

 ある一編に脇役として登場した少女が、次の一編では主人公となるという、ロンド形式。
 各編とも趣向が凝らされ、独立した短編としても楽しめるし、通読するとジグソーパズルが完成して一枚の絵となる感覚を味わえる。

 本書の解説で、作家の大島真寿美が宮下作品を「静物画」に喩えている。たしかに、どの作品も共通して静謐な印象を与える。
 暴力描写や煽情的性描写は一切なく、登場人物が叫んだり罵ったりする場面もなく、丹念な心理描写や風景描写などだけで読者をぐいぐい引っ張っていく。非日常を描くのではなく、日常の豊かな手触りを慈しむように描く、という趣。

 派手さはないものの、とても心地よい小説を書く人だと思う。 

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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