馳星周『ソウルメイト』



 今日は、都内某所で打ち合わせが一件。
 行き帰りの電車で、馳星周著『ソウルメイト』(集英社文庫/670円)を読了。

 馳星周といえば、バイオレンスに満ちたノワール(暗黒小説)の書き手として知られているわけだが、本書は普段の彼の作風とはかけ離れた、ハートウォーミングな「犬小説」集である。

 全7編の短編集で、それぞれ、“主人公”となる飼い犬の犬種がタイトルになっている。「チワワ」「ボルゾイ」「柴」「ウェルシュコーギー・ペンブローク」という具合だ。

 犬好きの著者が、犬好きの読者に向けて書いた作品集。
 収録作の大半は、家族の絆が犬によって再確認される「家族小説」でもある。冷め切った夫婦が犬を媒介に愛を取り戻す話、離婚した妻の元に残してきた息子と、犬を介して絆を取り戻す話など……。また、犬がキューピッド役となるラブストーリーもある。

 各編とも趣向が凝らされているし、あざとい「お涙ちょうだい」にはなっておらず、気持ちよく読める。
 犬好きなら、「ああ、わかるわかる」とうなずく場面や文章も、随所にある。たとえば――。

 レイラがうなずいた。もちろん、ただの思い込みだ。犬がうなずくわけがない。犬を擬人化しすぎるのは危険だが、擬人化しなければ一緒に暮らしていく意味がない。



 7編中、私がいちばん気に入ったのは、「ウェルシュコーギー・ペンブローク」。飼い主に虐待されつづけ、“人間恐怖症”に陥った犬を引き取った夫婦が、犬の凍りついた心を溶かすまでのプロセスを描いた物語だ。
 犬を虐待しつづけた前の飼い主が、経済的に恵まれ、傍目には幸せそのものの仲のよい家族だった、という描写にも、ゾッとするリアリティがある。

 最後の「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」は、癌になった犬の最期を飼い主が看取るまでの物語。これだけが、やや異質な印象を与える。ほかの6編に比べ、際立って感傷的な内容になっているのだ。
 それもそのはず、これは作者自身が飼っていたバーニーズの最期が投影された作品なのだ(その看取りのプロセスを、馳星周は『走ろうぜ、マージ』というノンフィクションにもしている)。
 本書のカバーを飾る著者撮影の写真も、おそらく、ありし日のマージだろう。

 相手がだれであれ、どんな関係であれ、人間同士の愛情の間には打算が生じる。だが、カータはわたしにすべてを捧げてくれた。わたしもカータにならすべてを捧げられた。カータはわたしのすべてだった(「バーニーズ・マウンテン・ドッグ」)



 人間の「ソウルメイト」(魂の伴侶)たる犬が飼い主に捧げる、また飼い主が犬に捧げる無償の愛を謳い上げて、犬好きなら感動必至の短編集。
 つい最近、続編も刊行されたので、それも読んでみよう。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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