町田康訳『宇治拾遺物語』



 町田康訳『宇治拾遺物語』読了。

 池澤夏樹個人編集『日本文学全集』の第8巻としてさきごろ刊行された、『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』の一編。
 町田康による大胆な訳が巷で話題になっているので、読んでみた。

 全編、爆笑の連続だった。中世の説話文学が、21世紀に読んでこんなにも笑えるものになるとは……。町田康の才能炸裂。彼に『宇治拾遺物語』を訳させようと考えた池澤夏樹のキャスティングの勝利である。

 町田の小説に見られるぶっ飛んだ言語感覚、文体のグルーヴ感が、そのまま活かされた訳業。
 芥川龍之介の短編「芋粥」「鼻」「地獄変」の元ネタになった説話や、昔話「わらしべ長者」「こぶとりじいさん」「舌切り雀」の元ネタになった説話も収められていて、いずれも町田康のカラーに染め上げられている。

 たとえば、「芋粥」の元ネタになった説話(『今昔物語』にも同じ話あり)の、次のような一節。

「え? 芋粥を飽きるほど食いてぇ? それマジ?」
「マジっす」
「よりによって芋粥かよ。滓みてぇな奴だな。あ、わりぃ、わりぃ。ごめんな。お客さん、滓とか言っちって」



 ……などという、ストリート感あふれる文体で訳されているのだ。
 「前世よりキャリーオーバーした宿業」、「あり得ないルックスの鬼」、「入水の聖(ひじり)・狂熱のライブ」、「なにかとストレスが多い宮廷社会に笑いを齎(もたら)してくれる貴重な人材」などという現代語の用い方も、むしょうにおかしい。
 
 当ブログで親鸞の『歎異抄』の関西弁訳(川村湊)を紹介したことがあるが、町田康の訳にも関西弁が随所に織り込まれ、絶妙な効果を挙げている。

 「町田康の訳した古典がもっと読みたい」と思わせる、見事な「超訳」。

 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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