ハービー・ハンコック『ハービー・ハンコック自伝』



 ハービー・ハンコック著、川島文丸訳『ハービー・ハンコック自伝――新しいジャズの可能性を追う旅』(DU BOOKS/3024円)読了。書評用読書だが、面白くて一気読み。

 前にこのエントリで書いたとおり、あれほどの大物にもかかわらず、ハービー・ハンコックの自伝や評伝はこれまでなかった。本書は、本国アメリカで昨年ようやく発刊された自伝(リサ・ディッキーというライターが構成を担当している)の邦訳だ。

 ハービーは、若くして名声を得て下積みなど皆無に等しいし、その後も数々の栄光に包まれており、「あまりに恵まれすぎていて、自伝は面白くなさそう」な印象がある。

 だが、本書を読んでみれば、ハービーの半生にもやはり多くの挫折と壁があったことがわかる。マイルス・クインテット脱退後の独立初期の苦闘、最愛の妹の飛行機事故死、90年代のクラック(吸引コカイン)依存など……。それらの壁や悲しみをどのように乗り越えてきたかが、赤裸々に綴られている。

 登場するエピソード群は十分にドラマティックだし、何より、ハービーのキャリアをフィルターとしたジャズ史として読み応えがある。1960年代から現在までの半世紀にわたって、ハービーはつねにジャズシーンの最前線を切り拓いてきたのだから……。

 ハービーが革新的な曲「ロックイット」を作り上げたとき、レコード会社の幹部たちはその価値を理解できず、「これを発表したらハービーのキャリアは終わりだ」と言い、プロモーションビデオの制作費を出すことすら拒否したという。だから、あの有名なPVは、ハービーが自腹を切って(ゴドレイ&クレームに依頼して)制作したのだとか。



 そのような秘話の数々が面白いし、ハービーの主要作品についての最上の解説書としても読める。なにしろ、ハービー自身が舞台裏を明かし、解説しているのだから。本書を脇に置いて、ハービーの名作群を一枚一枚聴き直してみたくなる。

 日蓮仏法の実践についても、かなりの紙数が割かれている。アメリカSGI(創価学会インタナショナル)入会の経緯が綴られる第12章以降の各章は、仏法の実践がハービーをどのように変えたかを明かしたものとも言える。
 とはいえ、宣伝めいた書き方ではないので、非学会員にも抵抗なく読めるはずだ。

 ハービーの音楽上の「師」マイルス・デイヴィスへのリスペクトが、全編にちりばめられた書でもある。とくに、「第21章 マイルスとの最後の日々」は泣ける。

 細部に至るまで読みどころと驚きに満ちた(とくにジャズの好きな人にとっては)、第一級の自伝。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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