矢野顕子『Welcome to Jupiter』



 矢野顕子のニューアルバム『Welcome to Jupiter』(ビクターエンタテインメント/3996円)を、2枚組仕様の初回限定盤で聴いた。

 スタジオアルバムとしては前作に当たる昨年の『飛ばしていくよ』は、私にとってかなりガッカリ度の高い作品であった。
 本作は、『飛ばしていくよ』の続編的位置づけ(「オトナテクノ」第2弾だそうだ)ということで、「またガッカリするかなァ」とイヤな予感を抱きつつ聴いてみた。

 なにしろ、前作に「在広東少年」や「電話線」のセルフカバーが収められていたように、今作にも「Tong Poo(東風)」(YMOの曲だが、アッコちゃんも『ごはんができたよ』でカバー)や「悲しくてやりきれない」(フォーク・クルセダーズのカバー)、パット・メセニー作の「PRAYER」の再演が入っているし……。

 前作のセルフカバー曲について、私は当ブログで次のように酷評した。

 「電話線」と「在広東少年」という初期~中期の代表曲をセルフカバーしているのだが、2曲とも「劣化コピー」という感じの出来。
 とくに、「在広東少年」は原曲とアレンジもほとんど同じ。これなら原曲を聴いたほうがいいわけで、いまさらオリジナルアルバムの曲目を割いてカバーする必然性が理解できない。
 ボーナストラック扱いならまだしも、「電話線」なんか今作のオープニングナンバーになっているし……。



 今作における「Tong Poo」「悲しくてやりきれない」「PRAYER」についての印象も、おおむね同じだ。
 『ごはんができたよ』『愛がなくちゃね。』『SUPER FOLK SONG』に入っていた元バージョンのほうがずっといいし、なぜいまさらリメイクするのか、意図がよくわからない。そして、出来の悪い「Tong Poo」のリメイクをわざわざオープニングナンバーに据える意図も、さらにわからない。

 では、前作『飛ばしていくよ』同様、本作は私にとってガッカリ・アルバムか?
 ……それが、意外にそうでもなかった。
 リメイク曲はいただけなかったが、オリジナル曲の出来が素晴らしい。「あたまがわるい」「そりゃムリだ」「わたしとどうぶつと。」「わたしと宇宙とあなた」「大丈夫です」など、みんなよい。つまり、彼女は「ソングライターとして枯れてしまったからセルフカバー/リメイクに走っている」というわけではないのだ。

 また、オリジナル曲以外では、はっぴいえんどの『風街ろまん』所収曲「颱風」のカバーが、ファンキーかつブルージーでカッコイイ。終盤のマーク・リーボウのギターが絶品だ。

 全体的に、前作よりはずっと楽しめるアルバムに仕上がっている。
 チープなピコピコ音の比重が前作よりも下がり、その分生ピアノの比重が上がっている点も好ましい。私は何よりもピアニストとしての矢野顕子のファンであるから。

 それに、初回限定盤の特典であるディスク2「Naked Jupiter」が、意外なほど出来がよい。
 これは、ディスク1収録曲から7曲を選び、「オフヴォーカルにし矢野顕子のピアノと各ビートメイカーのトラックのみで再ミックスされたオトナテクノトラック集」である。

 「どうせ、たんなるカラオケ集みたいなもんでしょ?」と思う人もいるだろうが、そうではない。独立した作品として価値をもつインスト集に仕上がっているのだ。BGMにしても心地よいし、随所に胸を鷲づかみにされる切なさがあって、アッコちゃんならではの“ジャズ風味の抒情派エレクトロニカ”という趣のミニアルバムになっている。
 ファンなら、少し高めでも初回限定盤を手に入れたほうがいい。

 『飛ばしていくよ』のガッカリ感がかなり払拭され、長年のファンとしては少しホッとした(もちろん、私とは逆に『飛ばしていくよ』を高く評価したファンもいるわけだが……)。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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