川崎大助『日本のロック名盤ベスト100』



 川崎大助著『日本のロック名盤ベスト100』(講談社現代新書/907円)読了。

 ありそうでなかった本。
 アメリカの『ローリングストーン』誌などはしばしばこの手のランキングを発表しているが、日本にこのような網羅的名盤ランキングは存在しなかった(音楽誌の特集などで「日本のロック名盤ガイド」のたぐいはあっても、ランキングはつけたがらなかった)。

 著者が客観的視点から「名盤ベスト100」を選出した労力は買うし、意義もあるだろう。ただ、本書のランキングには大いに異論があるなあ。

 ちなみに、ベスト10は次のようになっている。


1位/はっぴいえんど『風街ろまん』(71年)
2位/RCサクセション『ラプソディー』(80年)
3位/ザ・ブルーハーツ『ザ・ブルーハーツ』(87年)
4位/イエロー・マジック・オーケストラ『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』(79年)
5位/矢沢永吉『ゴールドラッシュ』(78年)
6位/喜納昌吉&チャンプルーズ『喜納昌吉&チャンプルーズ』(77年)
7位/大滝詠一『ロング・バケイション』(81年)
8位/フィッシュマンズ『空中キャンプ』(96年)
9位/サディスティック・ミカ・バンド『黒船』(74年)
10位/コーネリアス『FANTASMA』(97年)



 著者は、本書のランキングは自らの「パーソナル・ベスト」を記したものではない、とことわっている。「パーソナル・ベストならこんな順位にはならない」と……(著者の「パーソナル・ベスト100」も、本書で紹介して欲しかった)。
 個人的嗜好は抑え、「オリジナリティ」「影響度」「革新性」「ロック追求度」などの5つの指標で採点し、総合獲得スコアによってランキングを決定したというのだ。

 たとえば、第4位にランクされているYMOの『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』。
 作品のクオリティのみで選べば、YMOの最高傑作は『テクノデリック』だろう。だが、「影響度」を勘案すれば、最大のヒット作であり社会現象を巻き起こした『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』が選ばれるのは、まあ納得がいく。

 ただ、それでも納得できないセレクトも多い。
 たとえば、一風堂のヒット曲を集めたベストアルバム『ルナティック・メニュー』が、57位にランクされている。
 この手の名盤ランキングにベスト盤を入れるなんて、ルール違反ではないか? 一風堂のアルバムなら、『ラジオ・ファンタジー』か『リアル』を選んでほしかった。

 また、Charの作品でランク入りしているのが、趣味的なソロアルバム『Psyche(サイケ)』のみ(32位)だというのは、納得がいかない。影響度から言っても作品の質から言っても、あれは断じてCharのベストとは言えないだろう。
 ピンククラウド~ジョニー、ルイス&チャーはどこへ行ってしまったのか? Charのソロアルバムから選ぶとしても、名曲「SMOKY」を収めたファーストの『Char』こそ歴史的名盤だろう(「影響度」や「ロック追求度」から見ても)。

 ほかにも、「ルースターズで『GOOD DREAMS』(25位)はないだろう」とか(私なら、ラストアルバムの『FOUR PIECES』か、逆にファーストアルバムを選ぶ)、「佐野元春なら『SOMEDAY』(17位)より『VISITORS』だろう」とか、随所に異論を挟みたくなる。

 ナンバーガールの最初のライヴ盤『シブヤROCKTRANSFORMED状態』が選ばれているが(94位)、私だったら絶対に『SAPPUKEI』を選ぶなあ。
 頭脳警察のファーストが選ばれているが(56位)、パンタのソロやパンタ&ハルのアルバムはなし。私は『クリスタルナハト』も『マラッカ』もベスト10級の傑作だと思うので、納得がいかない。
 また、私はPINKこそ80年代日本最強のロックバンドだったと思っているが、本書のランキングには影も形もなし。
 遠藤賢司の『満足できるかな』が36位にランク入りしているわりには、ロッカーとしての泉谷しげるは無視。『'80のバラッド』とか、歴史的名盤だと思うけどなァ。

 ……などと文句をつけていったら、まあきりがないのだが。

 そもそも、カヒミ・カリィや宇多田ヒカル、Perfume、PUFFYまでベスト100に入れているあたり、ロックの定義/範囲設定そのものが、著者と私ではかなり異なるようだ(「そこまで広げていながら、キリンジは完全無視かよ」とか、また文句が言いたくなる)。

 だがそれでも、心の中でいちいちツッコミを入れながら本書のランキングを眺めること自体、大変楽しかった。日本のロック好きが集まって、本書をサカナにあれこれ語り合っても楽しそうである。

 本書は、前半がベスト100アルバム・ランキングと各アルバムの解説、後半はそのランキングをふまえた日本のロック史概説という二部構成になっている(第2部のタイトルは、「米英のロックと比較し検証した日本のロック全歴史」というもの)。

 後半の概説も、これまた相当クセの強い内容だ。
 たとえば、冒頭で「日本のロックの歴史は一九七◯年に始まった」と宣言され、50年代半ばから60年代の“日本のロック”は歌謡曲に過ぎなかったと断じられている。ううむ……。
 著者の偏った主観が既成事実のごとく断定的に論じられ、私は随所で反発を覚えた(卓見もあるのだが)。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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