谷口ジロー『千年の翼、百年の夢』



 谷口ジローの『千年の翼、百年の夢』(ビッグコミックススペシャル/596円)を読んだ。

 ルーヴル美術館と『ビッグコミックオリジナル』のコラボ企画、なのだそうだ。
 内容は、主人公の日本人男性がルーヴル美術館を訪ねると、「サモトラケのニケ」の化身が現れて幻想の世界に誘う、というもの。
 彼はそこで、最晩年のゴッホと出会ったり、ナチの略奪から収蔵品を守ったルーヴル職員たちの命がけの奮闘に立ち会ったりするのである。

 谷口ジローは、「バンドデシネ」の国・フランスでも評価が高い。「フランス文化芸術勲章(シュヴァリエ)」も受章しているほどだ。
 だから、この企画で彼に白羽の矢が立ったのは納得だが、絵はともかく、ストーリーがどうしようもなく陳腐。優秀な原作者を立てるべきだったと思う。

 谷口ジローの作品のうち、私が抜きん出た傑作だと思うものを挙げると……。
 絵のすごさでいえば、関川夏央と組んだ連作『海景酒店 HOTEL HARBOUR-VIEW』。
 エンタメとしての完成度の高さでいえば、古山寛と組んだ『風の抄――柳生秘帖』(新装版では『柳生秘帖』がメインタイトルになっている)と、夢枕獏の小説を劇画化した『餓狼伝』。
 娯楽性と芸術性のバランスのよさでいえば、関川夏央と組んだ『「坊ちゃん」の時代』シリーズ……というところ。

 つまり、谷口のスゴイ作品はおおむね「原作つき」なのである。
 日本が世界に誇る「絵師」の一人である谷口だが、「天は二物を与えず」で、ストーリー作りの才にはあまり恵まれていないのだ。そのことを改めて感じさせる、残念な失敗作だと思う。

 作品のタイプは違えど、同じ美術界を舞台にした『ギャラリーフェイク』(細野不二彦)のエンタメとしての質の高さと比べると、「月とすっぽん」(死語)だ。

 もっとも、この作品にはほかに価格の高いオールカラーの「豪華版」もあるので、そっちで読んでいたら感想も少しは違ったかもしれない。ケチって普及版を買うべきではなかった。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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