柳美里『貧乏の神様』



 柳美里著『貧乏の神様――芥川賞作家困窮生活記』(双葉社/1512円)読了。

 2部構成である。前半の「Ⅰ-日々是貧乏」は、雑誌『創』に連載された身辺雑記エッセイの中から、とくに困窮ぶりがあらわれた回をセレクトしたもの。
 いっぽう、後半の「Ⅱ-原稿料を払ってください」は、『創』の原稿料未払い騒動の顛末を、ブログの抜粋とインタビューでたどっている。

 「やはり、芥川賞まで受賞した著名な作家が食うや食わずであるはずがない、という先入観を持っている方が多いのです」と、「はじめに」にはある。「芥川賞作家困窮生活記」という副題は、そうした先入観を逆手にとったアイキャッチとして秀逸だ。

 まあ、芥川賞を受賞しながらホームレス同然の暮らしをしていた作家だっているわけで、「芥川賞を取れば生活は安泰」などというのは、業界を知らない人の幻想にすぎない。
 柳さんも書いているように、「小説家が、筆一本で食べていくのは奇跡みたいなもの」なのだ。

 もっとも、本書前半に収められたエッセイは、困窮をテーマにしたものばかりではなく、多彩な内容である。ただ、そのディテールに困窮ぶりがにじみ出ているのだ。たとえば――。

 わたしは、相変わらず貧乏暇なしの日々を送っています。
 特に9月は史上何番目かの経済危機で、料金未払いのために固定電話とインターネットの回線を切られ、あと2日で携帯電話も切られるという段になって、わたしは10年近く集めていた記念切手を売ることにしました。



 貧乏話ではあるものの、筆致には飄々としたユーモアがある。それに、不遇を嘆く暗さよりも、「武士は食わねど高楊枝」的な潔さが全編に満ちていて、読後感はむしろ爽快だ。

 書くことを仕事に選んだ18歳の時から、金銭的や時間的には無理をしても、自分の性分や生き方には無理のない仕事をしよう、とわたしは決めたのです。(「はじめに」)



 困窮ぶりの中から、著者の志の高さが伝わってくる一冊。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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