柳美里 『命』『魂』 『生』『声』



 柳美里著 『命』『魂』 『生(いきる)』『声』(新潮文庫)読了。

 いわゆる『命』四部作である。
 著者が不倫相手の子を身ごもったとき、元恋人で「作家・柳美里」の生みの親・育ての親でもある東由多加(劇作家・演出家)のガンが発覚する。東と過ごす最後の日々と、私生児を産み、育てていく過程が並行して進行する。死にゆく命と生まれいずる命が交錯する物語。
  『命』『魂』 『生』で東の闘病と死までが描かれ、最後の『声』は彼の葬儀と四十九日までが描かれる。

 大ベストセラーになった作品ゆえ、これまで敬して遠ざけてきたのだが、仕事上の必要があって読んだ。
 想像していたよりもずっとよい作品だった。特異な愛の物語としても、ガン闘病記としても、一人の作家の内面をつぶさに描いた作品としても優れている。
 意外なほど読みやすく、四部作を一気に読ませる。一冊読んだら次に手を伸ばさずにいられない。柳美里の筆力はやはり大したものだと思う。

 すべてをさらけ出し、血を流すようにして書かれた、“究極の私小説”ともいうべき作品。
 最終作『声』のあとがきには、次のような印象的な一節がある。

 空白を、文字と〈物語〉で埋め立てたのではない。空白は空白のままで、不在は不在のままだ。それでもわたしは書かずにはいられなかった。止血するためではなく血を流すために、解放されるためではなく囚われるために、語るためではなく沈黙するために。



 いちばん胸打たれたのは、柳と東の表現者同士としての深い絆が示されるくだり。たとえば、東の葬儀で読まれた柳の弔辞には、次のような一節がある。

 あなたを失ったわたしは不幸です。けれど、役者を目指していた十代のわたしに、不幸から逃げるな、不幸のなかに身を置いて、書くことによって、その不幸を直視しろ、といったのはあなたです。
 もう現実のなかであなたと逢うことはできませんが、さよならはいいません。
 書くことによって、あなたと再会できると、わたしは信じています。



 「感動の実話」の文脈で捉えられがちな四部作(じっさい、私はそういうイメージで食わず嫌いしていた)だが、じつは「感動もの」とかラブストーリーの域を超え、文学として正当に評価されてしかるべき作品だと思った。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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