ポール・ロバーツ『「衝動」に支配される世界』



 昨日は、取材で横浜の元町・中華街へ(中華料理店の取材ではないが)――。

 行き帰りの電車で、ポール・ロバーツ著、東方雅美訳『「衝動」に支配される世界――我慢しない消費者が社会を食いつくす』(ダイヤモンド社/2592円)を読了。

 『食の終焉』『石油の終焉』で知られる米国のジャーナリストが、こんどは「資本主義の終焉」ともいうべきテーマに挑んだ最新作。
 米国で資本主義が爛熟を極めた果てに現出した、人々の欲望ばかりを駆り立てる社会。それがいま破滅に向かいつつある現状を、さまざまな角度から描き出している。

 少し前に当ブログで『なぜ「つい」やってしまうのか――衝動と自制の科学』を紹介した際、私は次のように書いた。

 本書を通読してしみじみ感じるのは、現代文明が人間の衝動性を引き出す誘惑に満ちた「欲望の文明」だということ。我々を衝動的過食や衝動的性行動、衝動買いなどに走らせる仕掛けが、社会の隅々にまで張り巡らされているのだ。



 まさにそのような「人間の衝動性を引き出す誘惑」が、どの国にも増して「社会の隅々にまで張り巡らされている」のが、現代アメリカであろう。
 「人間が昔より強欲になったわけではない。強欲さをむき出しにできる回路が途方もなく拡大されただけなのだ」
 ――アラン・グリーンスパンの言葉だが、これはまさにアメリカにこそあてはまる。「消費者が欲しがるものを与えることに驚くほど長けた社会経済システム」(本書の序章の一節)が、最高度に発達してしまった国なのだ。

 お金がなくてもクレジットカードで買い物ができ、収入が低くても無謀な住宅ローンで家が買える。また、ネット上のさまざまなSNSを通じて、承認欲求・自己表現欲求は日々絶えず満たされ続ける。
 そして、金儲けの最も手っ取り早い手段として、空疎なマネーゲームが横行する。価値あるものを作り出すことによってではなく、金融操作で巨富を得ることが経済の中心に居座ってしまうのだ。

 アメリカのみならず、現代の先進国に多かれ少なかれ共通する現象だが、その行きつく先にどんな悲劇が待ち構えているのかを、著者はアメリカの無残な現状から明らかにする。

 一九八◯年以来クレジットカードの平均利用残高は、三倍以上に増えた。カードの利用残高を含めた家計の負債額の増加ペースは、収入に比べて二五%速かった。(中略)個人破産の割合は三倍になった。



 肥満が急増した(一九七◯年から一九九五年の間に、体重過多のアメリカ人の割合は、二◯人に三人から、一◯人に三人に増えた)。ドラッグの使用、性的な乱交、不倫が増加した。行き過ぎた行為は消費に留まらず、忍耐力や礼節、自制心も全般に不足しているように思われた。



 個人の欲望の暴走に歯止めがかからないどころか、多くの企業が自らの利益のために、その暴走を後押ししている。そのような「インパルス・ソサエティ」(=衝動社会/本書の原題)のありようは、いまやアメリカの企業文化を壊し、人々の利他的なコミュニティを壊し、政治のありようまでも変えてしまったと、著者は訴える。

 インパルス・ソサエティ化の根幹となったのは、社会の「金融化」(「金融市場が私たちの経済生活のあらゆる部分に入り込み過ぎて」いること)であり、ネットとコンピュータの急速な発展である、というのが著者の見立てだ。

 本書は、ヘンリー・フォードの時代にまで遡り、米国のインパルス・ソサエティ化の歩みをたどった書でもある。
 その意味で、当ブログでも取り上げた『誰がアメリカンドリームを奪ったのか?』(ヘドリック・スミス)の類書でもあり、2作を併読することでいっそう理解が深まるだろう。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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