ポール・J・シルヴィア『できる研究者の論文生産術』



 ポール・J・シルヴィア著、高橋さきの訳『できる研究者の論文生産術――どうすれば「たくさん」書けるのか』(講談社/1944円)読了。

 原題は「How to Write a Lot」。米ノースカロライナ大学准教授で心理学者の著者が、自らの経験をふまえて論文生産の効率を高めるコツを説いた本だ。

 もちろん私は研究者ではないし、書いているのも学術論文ではない。が、本書はライターのモチベーション向上にも役立つものであった。
 章立ては次のようになっている。

第1章 はじめに
第2章 言い訳は禁物―書かないことを正当化しない
第3章 動機づけは大切―書こうという気持ちを持ち続ける
第4章 励ましあうのも大事―書くためのサポートグループをつくろう
第5章 文体について―最低限のアドバイス
第6章 学術論文を書く―原則を守れば必ず書ける
第7章 本を書く―知っておきたいこと
第8章 おわりに―「まだ書かれていない素敵なことがら」



 このうち、4章から7章まで――すなわち本書の半分は、研究者にしか役立たない内容であったり、日本人には関係ない話であったりする。それでも、残り半分の章のためだけに買う価値のある本だった。

 私は30年近くもフリーライターをやってきたのに、いまだにスケジュール/モチベーション管理が拙劣で、しばしばスケジュールの狂い(要するに仕事の遅れ)に悩まされている。
 その泥沼の悪循環からなんとか抜け出そうと、最近、いろんな工夫を重ねたり、この手の本を読みかじったりしている。

 本書は、以前当ブログで紹介した『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』と並んで、背中を押してくれる効果の高い本だと思った。

 著者の主張の骨子は、きわめてシンプル。

 ・「書かないための言い訳」(「まだ準備が足りない」「まとまった時間が取れたら書く」など)を自らに禁じること
 ・毎日決まった執筆時間をもうけ、その時間には必ず机に向かって書くことで、執筆を習慣化すること
 ・毎日、その日の具体的な執筆目標を設定すること(ほかに、もっと大きな目標も設定する)
 ・たくさん抱えた仕事の優先順位を明確にしておくこと
 ・執筆進行状況を、つねに具体的に把握しておくこと

 ――大枠としては、これくらいなのだ。
 ご覧のとおり、斬新なアイデアが盛り込まれているわけではなく、凡庸なアドバイスのようにも思える。だが、そのことを「凡事徹底」で行うためのノウハウに独自性がある。
 たとえば、著者は統計ソフトを使って「執筆進行状況管理ファイル」を自作し、自分の執筆作業を可視化している。何を何ワード書いたのか、執筆のためにどのような作業をしたのか、その日の目標は達成できたのか否かなどを、毎日記入していくのだという。

 そのことがもたらす効果について、著者は次のように言う。

 自分の行動を見張っているだけで、机に向かって書くのが楽になる。行動研究からは、自己観察だけで、所望の行動が誘導されることがわかっている。
(中略)
 執筆時間帯に机に向かわなかった場合に記録表に大きくて醜いゼロという文字を入力する効果は大きい。(中略)執筆の進み具合を記録していると、目標を上手に立てられるようになる。記録しはじめてしばらくすると、自分の執筆の進み具合について現実的な予想を立てられるだけのデータが集まってくる。目標を上手に立てられると、執筆ははかどるものだ。



 ダイエットにおける「レコーディング・ダイエット」のようなものだが、私も取り入れてみようと思った(いまでも、その日何を執筆したかの大まかな記録はつけているのだが、もっと細かく記録することにしよう)。

 執筆モチベーションを保つために、抜き書きして机の前に貼っておきたいような言葉も多い。研究者ならずとも、日常的に文章を書く仕事の人なら一読の価値がある本。

■関連エントリ
ピアーズ・スティール『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』
中井紀之『「前倒し」仕事術!』

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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