神山典士『ゴーストライター論』



 神山典士(こうやま・のりお)著『ゴーストライター論』(平凡社新書/799円)読了。
 
 佐村河内守のゴーストライター騒動に火をつけたライターでもある著者が、作曲ではなく書籍のゴーストライターについてまとめた本。
 じつは著者自身が書籍のゴーストライター経験も豊富な人であり、佐村河内騒動に際しては知人から、「ゴーストライターがゴーストライティングの批判をしている」と揶揄されたという。

 だが、出版社から依頼を受けて執筆する一般書のゴーストと、関係者も欺いた芸術作品のゴーストは次元の違う話であり、著者が佐村河内を批判する本(『ペテン師と天才 佐村河内事件の全貌』)を書いたことは、矛盾でもなんでもない。

 本書も「佐村河内事件の一連の報道のスピンアウト企画として生まれてきた」(あとがき)ものだが、事件うんぬんを抜きにして、ゴーストライター論として読み応えがある。

 本書に最も近い類書は、当ブログでも取り上げた『ビジネス書の9割はゴーストライター』(吉田典史)であろう。本書にも、同書についての言及がある。
 吉田の本はゴーストライターのマイナス面に強く光が当てられていたのに対し、本書は逆にゴーストライターのプラス面――仕事のやりがい・意義・醍醐味に光が当てられている。

 「ゴーストライターが文章を書いているなんて、読者に対する詐欺行為だ!」と思っている向き、ゴーストライターにマイナスイメージしかない向きには、ぜひ本書を読んでほしい。印象が一変するはずだ。

 それに、ゴーストライターにかぎらず、人物ノンフィクションについての著者の方法論を開陳した「ライター入門」としても読める内容である。

 ゴースト本の名作『成りあがり』(矢沢永吉の話を糸井重里がまとめた)を生んだ編集者にインタビューするなど、取材部分にもかなり厚みがある。「論」というより、ゴーストライターの舞台裏をさまざまな角度から探ったノンフィクションという趣。

 著者は、「ゴーストライター」という呼称そのものがネガティブでよくないとして、「チームライティング」という新しい呼称を提唱している。(名義上の)著者・ライター・編集者の三者が「チーム」となって本を作り上げていくやり方、という意味だ。
 上阪徹は同様の理由から、「ブックライター」(「書籍の聞き書きライター」の意)という呼称を提唱している。私も、「ゴーストライターではなく、『文章化のアウトソーシング』と呼べばいいのだ」と書いたことがある。

 呼び名はどうあれ、今後もゴーストライターの需要は減ることはないだろうから、ライター及びライター志望者なら読んで損はない本だ。

 複数の弁護士に取材したゴースト仕事の著作権についての考察も、興味深い。たとえゴースト仕事であっても、原稿の著作権は第一義的にはライターにあると考えられるという(!)。

 法律的に言えば、ゴーストライティングの現場で発生する著作権は、まず原稿を書いたライターにあり、それを何らかの契約によって著者に移すという流れになる。



 ゴースト本を多く手がけてきた者として、勇気づけられた。「私(名義上の著者)の話を文章にしただけなんだから、ライターに著作権なんて……」と軽んじられた経験も、まあ、皆無ではないからだ。

 もう一つ勇気づけられたのは、著者が一貫して“ゴーストライターは高いスキルを要求される仕事だ”と強調している点。
 たとえば、ゴースト経験も豊富なベテランライター・永江朗の、次のようなコメントが紹介されている。

「ある大学で教えていたときに、『ライターになりたいのでゴーストライターの仕事でも紹介していただけませんか』とやってきた学生がいて、怒ってしまいました。『ゴーストライターでも』とは何か、と。著者から魅力的な言葉を聞き出してそれを読める文章にすることを舐めてはいけない。それには高度なスキルが必要なんだと諭しました」



 このコメントには快哉を叫んだ。「ゴーストライターなんて、どうせろくに仕事のない三流ライターがやってるに違いない。一流なら署名原稿だけで食っていけるはずだから」というネガティブ・イメージがあって、常々反発を覚えていたからだ。 

 まあたしかに、署名原稿だけで食っているライター(そういう人は普通「ライター」ではなく「作家」と呼ばれるが)に比べたら「三流」かもしれないが、ゴーストライターのスキルもそう馬鹿にしたものではないのだ。

■関連エントリ→ ゴーストライターの仕事について

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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