最相葉月『れるられる』



 昨日は取材で茨城県へ――。取手市と神栖市に赴く。

 行き帰りの電車で、最相葉月著『れるられる』(岩波書店/2052円)を読了。

 「シリーズ ここで生きる」の1巻として書き下ろされたもの。風変わりなタイトルは、「生む/生まれる」など、人生の受動と能動を示している。

 全6章立て。各章のタイトルは、「生む・生まれる」「支える・支えられる」「狂う・狂わされる」「絶つ・絶たれる」「聞く・聞かれる」「愛する・愛される」というもの。

 これだけだと何のことだかわからないが、たとえば「生む・生まれる」は出生前診断の是非についての話であり、「絶つ・絶たれる」は著者の知人であった優秀なポスドクの自殺をめぐる話。つまり、命を絶つ・絶たれるの両面から、科学の研究現場にある構造的矛盾と、高学歴ワーキングプアの問題を探った内容だ。
 
 ノンフィクション作家としての取材の舞台裏を明かした、もしくは取材から派生したエピソードを綴った連作エッセイ集である。
 ただし、筆の赴くままに綴られたお手軽なエッセイではない。各編はそれぞれ丹念に作られたノンフィクション小説のようでもあるし、一つの社会問題について深く思索をめぐらせた「論考」としても読める。重層的で滋味深い一冊だ。

 6編それぞれ読み応えがあるが、私は第1章の「生む・生まれる」に最も心を揺さぶられた。これは、生命科学の分野で取材を重ねてきた最相葉月にしか書き得ない名文だと思う。
 印象に残った一節を引く。

 現代は、病気や障害を突き止める技術が、病気を治す力や障害を生きる環境づくりよりも先走る時代だ。出生前診断を受けず、胎児の状態を知らないままでいることには強い意志を必要とする。診断を受けないと決めた一割弱の妊婦たちは勇気がないわけでも無知でいたいわけでもない。知らないでいるという、もう一つの大きな選択を成し得た人々なのである。
 私は彼らがえらいとか見上げたものだといいたいわけではない。ただ、彼らの選択を尊重したい。だから遺伝カウンセラーは出生前診断のコーディネイターであってはならないと思う。医師とは一線を画した公平な立場にあって、もし妊婦が診断を受けないことを望んだら、その決断を支えるのがカウンセラーの務めだろう。



関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
28位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
22位
アクセスランキングを見る>>