桜木紫乃『ホテルローヤル』


ホテルローヤルホテルローヤル
(2013/01/04)
桜木 紫乃

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 桜木紫乃著『ホテルローヤル』(集英社)読了。2年前の直木賞受賞作だが、いまごろ読んだ。

 ライターが1年で2番目に忙しい「ゴールデンウィーク進行」の完遂まで、あと3~4日というところ。
 仕事が立て込んでくると、仕事の内容とはビタイチ関係ない本に対する読書意欲がもりもり湧いてくる(笑)。ま、現実逃避ですね。

 この人の小説を読むのはこれが初めて。そこそこ面白かったけど、「直木賞をとるほどのもんかなあ」と思ってしまった。

 北海道釧路市の廃業したラブホテル「ホテルローヤル」をめぐって展開される、全7編の短編連作である。

 最初の「シャッターチャンス」が、廃墟となったホテルローヤルに侵入してヌード写真を撮るカップルの話。そこから一編ごとに時間を遡り、ラストの「ギフト」はホテル開業前夜の話になっている。一つのラブホをめぐる30年間のドラマが、7編に凝縮されているのだ。
 7編の登場人物は相互に関連し合っていて、一編の主人公が別の一編では脇役で登場したりする。音楽における「ロンド」のような、凝った構成。

 なかなか気の利いた趣向だが、過去に遡る形ではなく、素直に時間の流れに添って構成したほうがよかった気がする。
 というのも、7編のうちでは最初の「シャッターチャンス」がいちばん出来が悪く、私はそこで本を投げ出そうかと一瞬思ったから。実際に投げ出した読者も多いことだろう。その後尻上がりに出来がよくなり、最後の「ギフト」で感動が頂点に達する。

 ストーリーはさほど面白いわけではないが、主要登場人物のリアリティが素晴らしい。
 とくに、地方都市の貧しい庶民の生活感を描き出すとき、著者の筆は冴え渡る。たとえば、「バブルバス」という一編における、五千円や一万円といったお金の価値をめぐるモノローグの生々しさはスゴイ。

 その他、印象に残ったセリフを引用。

「幸せにするなんて無責任な言葉、どこで覚えたの。そんなもの、生活をちゃんと支えてから言いなさいよ。幸せなんてね、過去形で語ってナンボじゃないの。これから先のことは、口にださずに黙々と行動で証明するしかないんだよ」(「ギフト」)



 著者の父親は、実際に「ホテルローヤル」というラブホを釧路郊外で経営していたという。
 本作自体はフィクションだが、ラブホをめぐるディテールに重いリアリティがあるのは実際の見聞に基づいているからなのだ。

 この人のほかの小説も読んでみよう。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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