ロレッタ・ナポリオー二『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』


イスラム国 テロリストが国家をつくる時イスラム国 テロリストが国家をつくる時
(2015/01/07)
ロレッタ ナポリオーニ、池上 彰 他

商品詳細を見る


 ロレッタ・ナポリオー二著、村井章子訳『イスラム国 テロリストが国家をつくる時』(文藝春秋/1458円)読了。

 「イスラム国」(IS)の概説書は日本でも昨年末から多数登場しているが、「とりあえず、どれか1冊読んでおこう」と思う向きには本書がオススメ。前史まで含めたISの歴史といまが、手際よくまとめられた良書だ。

 訳文は平明で淀みがなく、200ページに満たない本なのでサッと読める。それでいて、テレビニュースの解説だけ見ていたのではわからないISの本質を、鮮やかにえぐり出す深みがある。

 著者は対テロファイナンス(って何?)専門のエコノミストにして、PLOやIRAなど、国家形態を取るに至ったテロ組織の研究者。北欧諸国政府の対テロ対策コンサルタントも務めているという。

 そんな著者が、ISとほかのテロ組織の違い――たとえばアルカイダやタリバンとの違い――を、さまざまな角度から浮き彫りにしていく。

 人質を斬首するなどの残虐性ばかりが目につくことから、我々はとかく、ISを単なる無法者の集団、歴史の針を暗黒の中世に巻き戻す前近代的集団として捉えがちだ。
 そのようなイメージとは裏腹に、ISが近代性と現実主義を身につけた集団であることを、著者は指摘していく。

 「イスラム国」は、従来のジハード集団から神話とレトリックを受け継ぐ一方で、国家建設という野望の実現に必要な現実主義と近代性を身につけている。彼らはテロをみごとにビジネス化し、短期間でスポンサーから自立して、戦争だけに依存しない経済を確立した。地元のスンニ派の部族と手を組み、反感を鎮め、重要資源の奪取によって得た収入を分け合っている。彼らは用意周到だ。賢いとさえ、言ってよかろう。



 いまや世界平和にとって最強の敵となったISが、我々がイメージするよりもずっとしたたかで、国家建設という野望についても本気であることを、思い知らされる本だ。

 ISが欧米などのムスリムの若者たちを惹きつける理由も、本書を読むとよくわかる。たとえば、次のような一節が強い印象を残す。

 ユダヤ人は、世界に散らばるユダヤ人のために、古代イスラエルの現代版を建国した。まさにそれと同じように、「イスラム国」はスンニ派のすべての人々のために、二一世紀のイスラム国家を、それも国家としてしかるべく機能する国を、興そうとしている。少なくとも彼らのプロパガンダは、そう主張しているのだ。
 「イスラム国」のメンバーの残虐なふるまいとイスラエル建国の父たちのふるまいを比べるのは、不当だし不快だと感じられることだろう。だが、「イスラム国」を支持し共鳴する人々の目には、カリフ制国家再興の試みはそのように映っているのである。

 

関連記事

トラックバック

コメント

コメントを残す

Secret


Guide 

   →全記事インデックス

Profile 

前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

Counter 

メールフォーム

★私にご用の方はここからメールを下さい。

お名前
メールアドレス
件名
本文

最近の記事

マイ「神曲」ベスト100

カテゴリー

里親募集中

タイトルの由来

●「mm(ミリメートル)」は、私のイニシャル「MM」のもじりです。

●私の大好きなギタリスト・渡辺香津美氏は、ご自身のイニシャル「KW」をもじった「KW(キロワット)」を、公式サイトのタイトルにしておられます(同名のアルバムもあり)。それにあやかったというわけです。

●あと、「1日に1ミリメートルずつでもいいから、前進しよう」という思いもこめられています(こじつけっぽいなあ)。

Archives

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
31位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
22位
アクセスランキングを見る>>