松岡真宏『時間資本主義の到来』


時間資本主義の到来: あなたの時間価値はどこまで高められるか?時間資本主義の到来: あなたの時間価値はどこまで高められるか?
(2014/11/20)
松岡 真宏

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 松岡真宏著『時間資本主義の到来――あなたの時間価値はどこまで高められるか?』(草思社/1512円)読了。

 ビジネス書だが、社会の変容を腑分けして名前をつけ、鮮やかに可視化してみせたという点では、アルビン・トフラーの諸作を彷彿とさせる。
 トフラーと大前研一を足して2で割って、もっとくだいて俗っぽくしたような(笑)内容なのだ。

 「時間をもっと有効に使え」「すきま時間を活用せよ」と説く「時間術」本なら、ビジネス書や「知的生産の技術」本の定番の一つだ。
 本書にもそういう側面はあるが、それだけで終わらない。スマホの普及、ソーシャルメディアの発達などによって、すき間時間の価値が急激に上昇し、時間資本主義の時代が到来した、とぶち上げるのだ(そういえば、少し前に『里山資本主義』という本もあった)。

 「時間資本主義」とは、時間というものの価値がこれまでのどの時代よりも大きくなり、あらゆるビジネス、サービスが時間価値という観点から(も)選ばれる時代の謂である。

 企業も、個人も、「時間価値」を追求したものが有利となる、時間資本主義の時代が、幕を開けようとしています。(版元の内容紹介より)



 著者によれば、時間価値には「節約時間価値」と「創造時間価値」の2方向があるという。
 前者は「時間の効率化」、後者は「時間の快適化」に置き換えられる。その2つの時間価値のどちらか(もしくは両方)を消費者に提供するビジネスが、これからは有望だというのだ。

 人々が時間価値に重きを置き始めていることを、著者はさまざまな事例から裏付けていく。たとえば、通勤時間の短縮化。

 時間が希少なものになり、みんなが必死で自由な時間を作り出そうとしているのに、通勤に1時間以上かけるということが、時代に逆行しているのである。家計主の通勤時間が1時間以上の世帯は、2008年の時点で16・2%であり、2003年の22・2%から大きく減っている。逆に、通勤時間が30分未満の世帯は、2003年では46・3%だが2008年では53・3%と過半数を超えている。全体的に、通勤時間は短くなってきているのだ。



 このような具体例の積み重ねで、時代の変化を浮き彫りにする手際はなかなかのもの。ビジネス書である以前に、読み物として面白い。

 かつて、日商岩井の激烈な商社マン・海部八郎(「ダグラス・グラマン事件」で失脚)は、昼間からパチンコをしている人を見て、「ああ、あいつの時間を買いたいなあ」としみじみ言ったのだそうだ(本書ではなく、田原総一朗氏の本で昔読んだ話)。
 いまや、富裕層や一流ビジネスマンが、低所得層の「時間を買う」ビジネスも生まれてきている。昨秋のiPhone6発売時に、日本のアップルストアにたくさんの中国人が並んだが、あれは富裕層から金をもらい、代わりに並んで買った人たち(中国発売はなかったため)なのだという。
 そのような、メモしておきたい話もたくさん紹介されている。

 ただ、著者の主張に首をかしげた点もある。

 たとえば、著者はスマホによって人々の生産性は高まったというのだが、一概にそうは言えないのではないか。私もスマホを使っているが、スマホで生産性が上がったという実感はまったくない。
 スマホは、「最強のヒマつぶしツール」でもあるネットをポケットの中に拡張させてしまったわけで、むしろ人々の生産性を押し下げた面が強いのではないか。

 中川淳一郎は、2009年刊の『今ウェブは退化中ですが、何か?』の中で、「携帯電話がもたらすものなんて『暇つぶし』がほとんどなんだから、それにハマっていて、能力は上がるの?  そいつらの生産性は上がるの?」と皮肉っぽく書いた。私は、著者の見方よりもこちらに説得力を感じる。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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