角岡伸彦『被差別部落の青春』


被差別部落の青春 (講談社文庫)被差別部落の青春 (講談社文庫)
(2003/07/15)
角岡 伸彦

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 角岡伸彦著『被差別部落の青春』(講談社文庫/617円)読了。
 
 最近、著者のブログ「角岡伸彦 五十の手習い――フリーライター奮戦&炎上記」を、面白く読んでいる。同世代の同業者として、シンパシーを覚える点が多々あるのだ。
 でも、この人の著書は読んだことがなかったので、まずはデビュー作に手を伸ばしてみたしだい。

 自らも大阪の被差別部落で生まれ育ったという著者が、2年を費やして100人以上の部落出身者・関係者に取材し、「差別と被差別の現在」(1999年刊行時の「現在」だが)に迫ったルポルタージュだ。

 ……というと、「うーん、重そうだなあ」と敬遠したくなる向きもあろう。しかし本書は、部落問題を扱った過去のノンフィクションとは一線を画している。

 「あとがき」で、著者は次のように言う。

 部落問題の報道にはいつも物足りないものを感じていた。活字にしろ映像にしろ、そこに描かれている部落は、差別の厳しさ、被差別の実態ばかりが強調されていて、私はいつも「それだけやないやろー。おもろい奴も、笑える話もあるで」と思っていた。ひとことでいうと「暗い」のだ。
(中略)
 厳しい差別が実態ではない、と言いたいわけではない。本書で見てきたように、地域や世代によってさまざまな部落がある。そもそも「被差別」の現実でくくるのに無理がある。
 その一方で、差別がなくなってきていることを強調し、鬼の首をとったように同和行政の行き過ぎを執拗に強調する人もいる。
(中略)
 このように部落の描かれ方は、差別がまだまだ厳しいという悲観論か、さもなければもうなくなっているという楽観論のどちらかでしかなかった。両極端なのである。私はその「間」を描いてみたいと思った。



 まさに本書は、悲観論にも楽観論にも偏りすぎることなく、被差別部落をニュートラルな視点から描き出しているのである。

 取材は終始ていねい。たとえば、部落内の食肉工場を取材する際には、自らが体験的にそこで一週間ほど働いてみる、ということまでやっている。
 そのような丹念な取材によって、著者は当事者でなければ踏み込めないところまで、相手の心に踏み込んでいる。それでいて、その筆は軽快さを失うことがない。随所に淡いユーモアすら漂わせつつ、部落のいまを活写していくのだ。

 読んでいて思い出したのは、関川夏央初期の傑作ノンフィクション『ソウルの練習問題』。あの作品が“等身大の韓国”を爽やかに描き出して、「韓国もの」の期を画したように、本書は「部落もの」に新しい風を吹き込んだのだろう。傑作だと思う。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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