稲垣栄洋『弱者の戦略』


弱者の戦略 (新潮選書)弱者の戦略 (新潮選書)
(2014/06/27)
稲垣 栄洋

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 稲垣栄洋(ひでひろ)著『弱者の戦略』(新潮選書/1188円)読了。

 雑草生態学を専門とする農学博士の著者(静岡大学大学院教授)が、生物の「生き残り戦略」をめぐる多彩なエピソードを紹介する科学読み物である。

 “生き物にとって強さとは何か?”が全体をつらぬくテーマであり、いろいろなことを考えさせる本だが、堅苦しい内容ではない。矢継ぎ早にくり出されるエピソードがとにかく面白く、読み出したらページを繰る手が止まらない。

 200ページに満たない本だが、詰め込まれた情報量が濃密なので、読み応えがある。構成もよく練られており、1冊の本としてウェルメイド。

 思わず人に話したくなる話や、人間社会とのアナロジーで身につまされたり、ニヤリとしたりする話が満載。単純に“動植物雑学集”として読んでも、かなりのクオリティだ。

 なお、「弱者の戦略」といえば、「ランチェスター戦略」の重要キーワードの一つでもある。ゆえに本書を、企業経営の要諦を説いたビジネス書と勘違いして手にする向きもあるかもしれない。
 たとえそうであっても、無駄にはならないだろう。本書に紹介された動植物の生存戦略の中には、中小企業の生存戦略のヒントになるものも少なくないからだ。

 本書の中で、私が付箋を打ったくだりのいくつかを、以下に引用しておく。

 十九世紀の後半から、ヨーロッパの都市で工業化が進むにつれて、暗色のガが増加するという事件が起こった。これが、よく知られる「工業暗化」と呼ばれる現象である。
(中略)
 もともとは木の幹は地衣類で覆われて白っぽいので、白い淡色のガの方が目立ちにくく、鳥に捕食されずに生き残る確率が高かった。ところが、工業化すると煤煙によってまわりが黒くなる。そのため、黒い暗色のガの方が目立ちにくくなって、生き残るようになったのである。



 ウマの仲間のシマウマは、草の先端を食べる。次にウシの仲間のヌーは、その下の草の茎や葉を食べる。そして、シカの仲間のトムソンガゼルは地面に近い背丈の低い部分を食べている。こうして、同じサバンナの草食動物も、食べる部分をずらして、棲み分けているのである。



 弱者である多くの生物が、強者には真似できないナンバー1となれるニッチを持っている。だからこそ、これだけ多くの生物が自然界に存在しているのである。



 西洋タンポポが生えるのは、道ばたや町中の公園など、新たに造成された場所である。このような場所は、土木工事によって日本タンポポが生えていたような自然は破壊されている。こうして大きな変化が起こり、空白となったニッチに西洋タンポポが侵入するのである。
 よく、西洋タンポポが日本タンポポを駆逐しているように言われるが、日本タンポポの生息場所を奪っているのは、人間なのである。
 西洋タンポポ以外にも、外国からやってくる外来雑草の多くは、人間がもともとあった自然を破壊してできた新たな場所にニッチを求める。そのため、埋立地や造成地、公園、新興住宅地、道路の法面(のりめん)、河川敷などを棲みかとしているのだ。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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