押見修造『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』


志乃ちゃんは自分の名前が言えない志乃ちゃんは自分の名前が言えない
(2013/11/19)
押見 修造

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 押見修造の『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』(太田出版)を、Kindle電子書籍で購入。

 タイトルが示すとおり、吃音症の少女を主人公にした青春マンガである。
 吃音症には、同じ音が連続してしまう「連発型」と、最初の音がなかなか出てこない「難発型」がある。本作のヒロイン・志乃は「難発型」だ。

 「あとがき」によれば、作者の押見自身が中学生のころから難発型の吃音症であり、本作のストーリーは自らの体験を下敷きに作り上げたものなのだという。

 それゆえ、ディテールのリアリティと、読者に訴えかける迫力がすごい。
 たとえば第1話は、高校に入学した志乃がクラスの自己紹介で名前が言えず、クラスメートたちに笑われるいきさつが描かれている。それだけの話なのに、志乃の焦燥とくやしさ、悲しみ、孤独感が、読む者にビリビリ伝わってくる。

 くわえて、本作が素晴らしいのは、この手のマンガにありがちな「クサさ」や、過度の啓蒙臭を微塵も感じさせない点だ。
 青春マンガとしてフツーに面白いし、淡いユーモアもちりばめられ、ちゃんと「押見修造の作品」になっている。

 この漫画では、本編の中では「吃音」とか「どもり」という言葉を使いませんでした。それは、ただの「吃音漫画」にしたくなかったからです。
 とても個人的でありながら、誰にでも当てはまる物語になればいいな、と思って描きました。



 「あとがき」にそうあるように、これは「吃音の少女をヒロインにした一級の青春マンガ」として、普遍的な魅力をもつ作品である。
 代表作『惡の華』のイメージが強いため、もっとドギツい内容を予想していたが、意外にも、センスのよい水彩画のような味わいの好作であった。

 なお、本作の「あとがき」は、一編の文章として独立した価値をもつものである。今後、マンガ家・押見修造を論ずる場合に、避けて通れない一文となるだろう。
 その印象的な一節を、以下に引く。

 もうひとつは、言いたかったことや、想いが、心のなかに封じ込められていったお陰で、漫画という形にしてそれを爆発させられたことです。
 つまり、吃音じゃなかったら、僕は漫画家にはなれなかったかもしれないということです。
 勿論、吃音だったから漫画家になれた、というわけではありません。しかし、吃音という特徴と、僕の人格は、もはや切り離せないものになっているということです。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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