吉村昭『私の文学漂流』


私の文学漂流 (ちくま文庫)私の文学漂流 (ちくま文庫)
(2009/02)
吉村 昭

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 昨日は、午前中に病院での定期検診。
 3週間ほど禁酒していたので、検査項目中、いつも唯一ヤバイ数値になっていたγ-GTP値がかなり下がった(それでもまだ正常値ではない)。

 午後は、都内某所で打ち合わせが一件。
 行き帰りの電車で、吉村昭著『私の文学漂流』(ちくま文庫/648円)を読了。
 作家として世に出るまでの雌伏期を振り返ったエッセイである。

 働きながら小説を書きつづけた日々を綴った後半の迫力がすごい。
 芥川賞候補に4回ものぼりながら、ついに受賞を果たせず、妻の津村節子が先に受賞してしまう。
 文芸誌からの連絡は絶え、勤めに忙殺され、しだいに小説から遠ざかっていく。その焦燥感が、読む者の心に強く迫る。

 このままでは小説を書くことはできなくなる、と、私はひそかに感じていた。恐しいことであった。大学時代に小説を書きはじめてから、私は、書くために自分の生命はあるのだ、と、自らに言いきかせてきた。兄の会社に勤めるようになったのも、生活を安定させ、それによって小説を書きたい、と思ったからであった。
 しかし、結果は逆になったようであった。(中略)
 私は勤めに押しひしがれて小説を書くことはできなくなっていて、その傾向は今後さらに強くなるだろう。自分の非力が、情なかった。



 そして、懸命に小説にしがみつき、ついには自らの中の鉱脈を探り当て、小説家として一本立ちするまでが描かれている。

 代表作であり、吉村にとって初の記録文学でもあった『戦艦武蔵』が、当初は人から頼まれて仕方なく、気乗りせずに書き始めたものだった、という述懐が興味深い。
 武蔵の関係者を訪ね、話を聞く作業をくり返すうち、事実を追求する面白さに吉村はのめり込んでいく。手つかずの鉱脈が、そこにあったのだ。

 文学にすべての情熱を注ぎ込んで生きてきた1人の男の、その情熱が報われるまでの苦闘の軌跡が、さわやかな感動を呼ぶ書。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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