松本大洋『Sunny』


Sunny 5 (IKKI COMIX)Sunny 5 (IKKI COMIX)
(2014/05/30)
松本 大洋

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 仕事上の必要があって、松本大洋の『Sunny』の既刊1~5巻を一気読み。
 Kindle電子書籍で買うと、紙版より1冊500円以上も安い。半額以下である(期間限定価格なのかどうかは知らない)。

 いやー、これは素晴らしい作品だ。「松本大洋の最高傑作」と評する人も多いようだが、それもうなずける。

 松本大洋の作品には強いクセ、アクがあって、それが苦手な人も多いと思う。私もじつは苦手で、優れたマンガ家であることは認めつつも、積極的に作品を追いかけてはこなかった。

 しかしこの『Sunny』は、絵柄もストーリーも、これまでの作品でいちばんクセがない。「松本大洋が苦手なマンガ好き」にも、すんなり受け入れられると思う。
 さりとて、「独創性が薄れた」ということではなく、松本にしか描けない作品なのである。鉄壁の個性は守りつつ、作品の間口が広がっている。

 児童養護施設「星の子学園」を舞台にしたマンガである。
 タイトルの『Sunny』とは、施設の庭に打ち捨てられた廃車の日産サニーのこと。子どもたちはときどきこのサニーの中に座って、自分だけの世界を作る。サニーは彼らの“聖域”なのである。

 一話ごとに、施設の子どもやスタッフなど、1人のキャラに光が当てられる。
 家庭の事情で親元を離れて暮らす子どもたちの心の揺れ動きが、すこぶるリアル。一人ひとりのキャラに血が通っている。「頭で作ったキャラ」という感じが皆無なのだ。
 それもそのはずで、松本大洋は小学生時代の大半を児童養護施設で暮らしたのだという。自らの体験をベースにした自伝的作品なのである。
 
 ハッと胸をつかれる哀切な場面が随所にあるものの、あざとい「泣かせ」はなく、静謐であたたかい印象の物語。
 選びぬかれた言葉は時に詩のようであり、味わい深い絵柄は上質な絵本のようだ。
 
 何より素晴らしいのは、わざとらしいセリフや言わずもがなの説明が一切なく、最小限のセリフと絵だけで心の動きを表現しきっていること。物語の「行間」は、読者がおのずと察するように作られている。絵がうまいのはもちろんだが、構成と演出がすごく巧みなのだ。

 それに、物語の舞台が1970年代後半である(はっきり特定されてはいないが、出てくる歌や流行りモノからそう推察できる)ため、私自身の子ども時代と重なって、いっそう味わい深い。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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