岡本浩一『上達の法則』


上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)上達の法則―効率のよい努力を科学する (PHP新書)
(2002/05)
岡本 浩一

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 岡本浩一著『上達の法則――効率のよい努力を科学する』(PHP新書/734円)読了。

 先日『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』(山口真由)を読んだとき、「努力の方法論の解説書には、もっとよいものがあるのではないか?」と考え、探してきたもの。

 社会心理学者の著者が、「認知心理学、学習心理学、記憶心理学などをベースに上達法を科学的に分析した」本。

 中級者が上級者にレベルアップするための方法論にかなりの紙数が割かれており、初心者向けではない。つまり、何かの習い事を始めたばかりの人が「効率のよい上達法」を知りたくて読む本としては、ふさわしくないのだ。

 むしろ、ずっと何かの努力をつづけてきた人が、さらなる進歩のきっかけをつかむために読むべき本といえる。けっこうハイブロウな内容なのである。
 
 著者は将棋や囲碁、茶道、クラシック音楽(の楽器演奏)に造詣が深いらしく、それらの分野の事例がたくさん出てくる。いずれも私には縁遠い分野なので、例としていまいちわかりにくいのだが、それでも面白く読めた。
 自分の専門分野(私の場合は文章を書くということだが)に引き寄せて考えれば、「ああ、◯◯でいえばこういうことだな」と類推できるのだ。

 書名の印象とは裏腹に、今日からすぐに取り入れられるような「効率のよい努力のコツ」は、ほとんど書かれていない。そういうものを求めて読むと、肩透かしを食うだろう。
 しかし、何かの分野で長年努力を重ねてきた人にとっては、さらなる高みを目指すための「気付き」を与えてくれる本だと思う。

 また、さまざまな分野の「達人」たちがどんな努力を重ねているかを紹介したエピソード集としても、楽しく読める。
 たとえば、次のような思わず唸るエピソードが、随所にちりばめられている。

 水泳選手のなかには、ふだんの生活でも椅子に座るよりはベッドや床に寝そべることにしている人がときどきいる。横になっているという姿勢を常態にして、座るための筋肉や立つための筋肉は水泳に役立たないから、つかないようにしているのである。



 相撲のしこを踏むというもっとも基礎的な訓練でも、それをしているときに頭の中でなにを考えなにをイメージしているかによって、豊かな内容にもなれば乏しい内容にもなるという談話を聞いたことがある。同様のことを、バットの素振りについても聞いたことがある。CDウォークマンを聴きながらしこを踏んでいるような人が上位に進めない理由はこんなところにもあるのだ。



 初心者、中級者は、うまくいったときに喜ぶ気持ちが強く、それが成長の原動力となる。けれども、上級者は、失敗したときのくやしさが、うまくいったときの喜びをはるかに上回るのである。
 後に将棋の名人についた谷川浩司さんは、子どもの頃、つねに自分より少し強い兄がライバルだった。その子どもの頃の将棋駒には、谷川少年の歯形がついているそうである。自分の形勢が悪いときに、駒を噛みながらくやしさに耐えていたというのである。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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