勝目梓『ある殺人者の回想』


ある殺人者の回想ある殺人者の回想
(2013/03/28)
勝目 梓

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 勝目梓著『ある殺人者の回想』(講談社)読了。

 勝目梓といえば、暴力とセックス満載の通俗エンタメ小説の巨匠だが、元々は純文学を志していた人である。
 自伝作品『小説家』以来、彼は原点回帰のような純文学作品を次々と発表してきた。

 本作も、その流れの延長線上にあるもの。殺人事件が物語の核になってはいるものの、かつてのバイオレンス小説とはカラーが異なる。殺人者と被害者の妻の間に育まれた哀切なプラトニックラブを描いた、異形のラブストーリーなのだ。

 「BOOK」データベースの「内容紹介」を引用する。

 76歳で二度目の殺人を犯した緒方一義は刑務所で自らの過去を振り返る――。九州の伊万里湾に浮かぶ島で生まれ、炭坑夫をしていた緒方は、昭和22年、隣家に募集坑夫として越してきた浦川の妻、久子に憧れ、ほのかな想いをいだく。だが浦川が緒方の母と無理やり関係を持ったことから、緒方は浦川を殺してしまう。そして刑務所から久子にお詫びの手紙を出した緒方の元に届いた「あたしは緒方さんをうらんではいません」という返事。出所して52年後、久子への変わらぬ想いが、緒方を再び罪へと導く……。

 

 傘寿(80歳)を獄中で迎えた老殺人者が、誰にともなく語る回想――という体裁で綴られる物語。
 炭鉱での暮らしを描いた前半部分に重いリアリティがあり(勝目は若き日に炭鉱夫をしていた時期があるそうだ)、あたかも実在の殺人者の手記を読んでいるかのよう。

 対照的に、出所した主人公が想い人と再会する後半の展開はやや荒唐無稽だが、筆運びに読者をぐいぐい引っぱる力があって、リアリティ不足が気にならない。
 団鬼六が晩年に書いていた一般小説がそうであったように、通俗エンタメの巨匠が長年培ったテクニックを駆使して書く純文学的作品には、純文学プロパーの作家にはない独特のパワーがあって、素晴らしい。

 ヒロインでありファム・ファタールとなる久子の操る博多弁(?)も、じつにいい味出してる。「うちは亭主ば殺した人ばこげんして何十年も心の中で好いとるとやもん」とか……。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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