矢野顕子『飛ばしていくよ』


飛ばしていくよ飛ばしていくよ
(2014/03/26)
矢野顕子

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 先月末に発売された矢野顕子のニューアルバム『飛ばしていくよ』(ビクター・エンターテインメント/3240円)を、ようやくゲットした。

 ピアノ弾き語りカヴァーアルバム『音楽堂』や、ライヴアルバム『荒野の呼び声 -東京録音-』などを間に挟んではいるものの、オリジナルスタジオアルバムとしては2008年の『akiko』以来5年半ぶりの新作。

 レコード会社がつけた惹句には、次のようにある。

 YMOが全面バックアップして制作された80年代までのサウンドの延長線上に拡がる、現代のEDM・ボカロ世代をも唸らせる上質かつアバンギャルドに進化を遂げたエレクトロニックポップスワールド。(中略)テクノミュージックの進化と深化、矢野顕子の真価に触れる大作。質実剛健・豪華絢爛、ジャパニーズテクノの金字塔ここに立つ!



 「YMOが全面バックアップして制作された80年代までのサウンド」といえば、『ごはんができたよ』『ただいま。』あたりということになる。そのへんはまさに私が少年時代にすり切れるほど(LPレコード時代なので)愛聴しまくったアルバムだが、あの時期のアッコちゃんにあった輝きは、本作には感じられなかった。

 「電話線」と「在広東少年」という初期~中期の代表曲をセルフカバーしているのだが、2曲とも「劣化コピー」という感じの出来。
 とくに、「在広東少年」は原曲とアレンジもほとんど同じ。これなら原曲を聴いたほうがいいわけで、いまさらオリジナルアルバムの曲目を割いてカバーする必然性が理解できない。
 ボーナストラック扱いならまだしも、「電話線」なんか今作のオープニングナンバーになっているし……。

 「エレクトロニックポップス」として見ても、故レイ・ハラカミとコラボした一連の作品のほうがよっぽどいいわけで……(私は『ホントのきもち』所収の「Too Good To Be True」がいちばん好きだ)。 

 全体に、「わかりやすいけど薄っぺらいアルバム」という印象。
 「アバンギャルドに進化を遂げた」と惹句にはあるが、むしろ、矢野顕子のアルバムでこれほどアバンギャルド性皆無なものは珍しいと思う。

 『ごはんができたよ』『ただいま。』のころのアッコちゃんは、ポップではあったが、同時にものすごく先鋭的でアバンギャルドでもあった。
 とくに、『ただいま。』所収の「たいようのおなら」「VET」「ASHKENAZY WHO?」「ROSE GARDEN」あたりは、いま聴いてもビックリするほどアバンギャルドだ。
 本作は、テクノポップ風味なところだけ見ればあのころに回帰したように見えるが、先鋭性がごそっと削ぎ落とされている分だけ、あのころよりつまらない。

 矢野顕子が「春咲小紅」を大ヒットさせたあと、二匹目のドジョウを狙った売れ線のシングル「あしたこそ、あなた」というのを出したことがある。
 「春咲小紅」を劣化コピーしたようなつまらない曲で、私は発売当時にガッカリしたものだが、このアルバム全体に同じニオイを感じてしまった。
 レコード会社を移籍してから初めて出すオリジナルアルバムということで、「売れるものを作らないと……」というプレッシャーを感じすぎたのではないか。

 ちなみに、「あしたこそ、あなた」はオリジナルアルバムには収録されず、のちに『オン・エア』というコンピレーションに収められた。たぶん、アッコちゃん本人にも駄作という意識があったのだろう。

 もっとも、2ちゃんねるのアッコちゃんのスレッドを見たら、私がキライな「あしたこそ、あなた」を「矢野顕子の最高傑作」として挙げている人がいて、ビックリしたことがある。
 「音楽の評価ってホントに人それぞれだ」と、しみじみ思う。このアルバムも、ファンの中には絶賛する人もいるのだろう。

 まだ数回しか聴いていないので、今後聴き込んで評価が変わるかもしれない。


■後記
 聴き込むうちにだんだんよさがわかってきたので、上の文章の表現を少しやわらげた。とくに、随所でエレクトロサウンドとアッコちゃんの生ピアノがからむあたり、わりとスリリング。
 ただ、彼女のアルバムのなかで出来の悪い部類だという印象は変わらない。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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