近藤ようこ・津原泰水『五色の舟』


五色の舟 (ビームコミックス)五色の舟 (ビームコミックス)
(2014/03/24)
近藤ようこ、津原泰水 他

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 近藤ようこが津原泰水の短編小説をマンガ化した『五色の舟』(ビームコミックス/842円)を読んだ。

 例によって、「漫棚通信ブログ版」さんがホメていたので買ってみたもの。ま、私はもともと近藤ようこのファンだし……。

 これを読むのに先立って、津原泰水の原作(短篇集『11 eleven』所収)も読んでみた。津原の短編の中でも、際立って評価の高い一編なのだそうだ。

 私は原作も面白く読んだが、比べてみればこのマンガ版のほうがよいと思った。原作を凌駕している見事なコミカライズである。

 「あとがき」によれば、「五色の舟」のマンガ化を望んだのは近藤のほうだったそうだ。たしかに、この原作と近藤の作風は相性バツグンだと思う。

 本作の舞台となるのは戦時中だが、テイストとしてはむしろ、近藤が得意とする中世もののマンガに近い。
 中世は、「人ならぬ異形のもの」が現実の中にまぎれこんでいても不思議ではない時代であった。だからこそ、人面牛身の怪物「くだん」が重要なキャラクターとなるこの幻想譚は、近藤によってマンガ化されるのがふさわしい。

 『水鏡綺譚』や『美(いつく)しの首』など、近藤の幻想的な中世ものマンガが好きな人なら、本作の作品世界にもすんなり入り込めるだろう。主人公の1人・桜のキャラ造形は、ほとんど『水鏡綺譚』の鏡子そのまんまだし。

 生まれつきの奇形や病気による欠損をもつ、男3人・女2人の見世物一座が主人公である。彼ら異形の者たちが擬似家族を構成している……という設定がまた、どことなく中世っぽい。

 近藤のマンガ化はおおむね原作に忠実だが、原作読者にも改変を意識させない細部のアレンジが随所に施されており、それがバツグンにうまい。
 また、原作を読んだだけではなかなかイメージしにくい、異形のキャラクターの造形も素晴らしい。とくに「くだん」の造形は、今後「くだん」をイメージするときにはまずこれが思い浮かぶだろう、と思わせる自然さだ。

 これがたとえば花輪和一や丸尾末広によるマンガ化だったなら、見世物一座の5人も「くだん」も、もっとグロテスクな造形になっただろう。近藤ようこのシンプルな絵柄だからこそ、グロテスクになる一歩手前で踏みとどまることができたのだ。むしろ、エロティックで儚い美しさに満ちたキャラ造形である。

 「小説のマンガ化」の傑作というと、私に思い浮かぶのは『餓狼伝』(夢枕獏→谷口ジロー)、『陰陽師』(夢枕獏→岡野玲子)、『パノラマ島綺譚』(江戸川乱歩→丸尾末広)、『老人賭博』(松尾スズキ→すぎむらしんいち)あたりだが、本作もそれらに勝るとも劣らない。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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