稲葉剛『生活保護から考える』


生活保護から考える (岩波新書)生活保護から考える (岩波新書)
(2013/11/21)
稲葉 剛

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 今日は、都内某所で打ち合わせが2件。
 行き帰りの電車で、稲葉剛著『生活保護から考える』(岩波新書/756円)を読了。

 湯浅誠らとともに自立生活サポートセンター「もやい」を運営してきた著者が、長年貧困問題の現場で活動してきた経験をふまえ、生活保護をめぐる問題を論じた一冊。

 「はじめに」で、「(本書は)いわゆる『中立的』な立場から書かれたものではありません」と宣言しているとおり、著者は明確に生活保護受給者の側に立っている。
 生活保護基準の段階的引き下げに踏み切った安倍政権を批判し、世にあふれる「生活保護バッシング」に反論し、一方で受給者たちのつらさに寄り添う――著者のスタンスはきわめて明快だ。

 たとえば、こんな一節がある。

 社会保障費削減へと突き進む政治の動きに自らの生存そのものを否定されたように感じ、絶望の末に抗議の自死をした生活保護利用者の女性を、私は知っています。
(中略)
 生活保護制度の本当の意味とは何でしょうか。それは人間の「生」を無条件で保障し、肯定することだと私は考えています。「生」というと、最低限の生存が維持できている状態だという意味に受け取られがちですが、ここで言う「生」とは衣食住だけでなく、健康で文化的な生活、つまり「人間らしく生きる」ことを意味しています。



 そうしたスタンスゆえ、生活保護バッシングに共鳴する人は本書を手に取ろうとも思わないだろう。が、そういう人にこそ読んでもらいたい。生活保護に対する世間一般の見方がいかに偏ったものであるかが、よくわかるから……。

 盟友・湯浅誠の著作同様、大局的視点から生活保護行政の問題点を衝く冷静さと、個々の困窮者と共闘する熱い現場感覚が、絶妙に同居している。

 安倍政権の生活保護行政を批判するとともに、歴代自民党政権が生活保護に向けてきた視線の歪みをあぶり出す著者の筆鋒は鋭い。いわく――。

 「家族の助合い」、「自助」を最優先に置き、「公助」の役割を最も後回しにする発想は自民党の「党是」とも言えるものです。



 読みながら、「福祉の党」をもって任ずる公明党が自民党と連立政権を組んでいることは、やはりどうしようもなく「水と油」だと改めて思った。考え方の根幹がまるで相容れないのだ。

 本書の圧巻は、第3章の「家族の限界」だと思う。
 この章では、一連の生保バッシングを契機に進められた生活保護法の「扶養義務強化」が、家族との間に決定的な亀裂を生じている一部の困窮者にとっていかに過酷な足枷となるかが、具体的事例を通して論じられている。
 
 その中で紹介される生活保護世帯の女子高生からのメールは、涙なしに読めない。
 高校の学費も(要返済の)奨学金でまかなっているという彼女は、メールに次のように記す。

「専門学校も奨学金で行けばいいと言われますが、専門学校卒業後、高校の奨学金と専門学校の奨学金を同時返済しさらには親を養えと言われる」
「私はいつになれば私の人生を生きられるのですか。いつになれば家から解放されるのですか」
「子が親を養うことも当たり前のように思われていますが、それは恨んでいる親を自分の夢を捨ててまで養えということなのでしょうか。成績は充分であるにもかかわらず進学は厳しいというこの状況はおかしいのではないでしょうか」



■関連エントリ→ 稲葉剛・冨樫匡孝『貧困のリアル』レビュー

 重箱の隅つつきを一つ。「はじめに」に、言葉の誤用がある。

 この本はそうした社会や政治の「流れに棹さす」ことを目的として書かれています。



 「流れに棹さす」は、「その流れをさらに加速させ、勢いを増す」という意味(→参考)。生活保護削減の「流れに棹さ」したらマズイだろ。
 天下の岩波の本なのだから、編集者か校正者が誤用を指摘してあげるべきだったと思う。 
 
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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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