イーライ・パリサー『閉じこもるインターネット』


閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義
(2012/02/23)
イーライ・パリサー

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 イーライ・パリサー著、井口耕二訳『閉じこもるインターネット――グーグル・パーソナライズ・民主主義』(早川書房/2100円)読了。

 2009年から、グーグルは「パーソナライズ検索」を本格導入した。以後、我々がグーグル検索を使えば使うほど、グーグルはこちらの好みや思考スタイル、行動パターンを把握し、それに合わせた広告や検索結果を表示するようになった。A氏とB氏が同じ時刻に同じ言葉を検索しても、その検索結果は同じものにはならないのだ。

 このようなフィルタリング技術は、グーグルに限らず日進月歩である。その進歩にはよい面もあるが、危険も多い。我々のプライバシーが知らぬ間に侵害され、その結果得られた情報がネット関連企業の金儲けに使われる……という危険は、そのうち最もわかりやすいものである。
 しかし、危険はそれだけにとどまらない。もっとわかりにくい、しかし場合によっては民主主義さえ揺るがしかねない危険がある。

 本書は、フィルタリング技術の進歩がもたらす危険について論じたものである。
 原題は、“The Filter Bubble: What the Internet Is Hiding from You”。「フィルターバブル」とは著者の造語で、「ネットのフィルタリング技術が泡のように我々を包み、世にある大量の情報と我々の間を隔てている」というほどの意味である。
 そのフィルターをすり抜けた情報だけが、私たちの目や耳に届く。そのことには「欲しいものがすぐに見つかって便利だ」というメリットがあるものの、反面さまざまなデメリットをもたらす。たとえば――。

 (フィルターバブルの中では)興味がないものは目にはいらなくなる。大きな出来事やアイデアを見のがしていることに、無意識にさえ気づかなくなる。
(中略)
 パーソナライズドフィルターには、普通、ズームアウト機能が用意されていないため、自分の位置を見失い、変化に富む巨大な大陸を小さな島だと勘違いしてしまいがちである。



 このデメリットの事例は、我々の周囲にいくらでも見つかる。ネトウヨ諸君はネトウヨにとって心地よい情報だけで自らの周囲を囲み、都合の悪い情報は目に入らなくなる。その結果、ますますネトウヨ的性向が強まっていく……というふうに。
 もちろん他人事ではなく、私の周囲には私向けにパーソナライズされたフィルターバブルがあるわけだが。

 また、著者はフィルターバブルがもたらす大きなデメリットの一つとして、人々の創造性が損なわれることを挙げる。
 発明、創作、科学の新発見など、すべての創造的営為にはセレンディピティ(偶然の発見)が不可欠だが、フィルターバブルの中ではセレンディピティが起きにくくなる、というのだ。
 なぜなら、パーソナライズドフィルターはその人が好むことや馴染み深いことを選択する仕組みであり、好みや馴染みにそぐわないものは排除されてしまうから。したがって、「思わぬものとの出合い」が激減し、成長や革新のきっかけが得にくくなる、というのだ。

 フィルターバブルは本格的には始まったばかりであり、その悪影響もまだ社会を揺るがすほどには表面化していない。が、私は著者の危惧はかなり正鵠を射ていると思う。

 本書は、さまざまな角度からフィルターバブルの危険を訴え、それを克服する方途についても提言している。面白い本だが、全体にアメリカの先端的知識層に向けて書かれた内容であり、平均的日本人にはわかりにくい記述も少なくない。
 たとえば、次のような一節――。

 サイバーブースターからサイバープラグマティストに転じたダグラス・ラシュコフは、こう語ってくれた。



 私が無知なだけかもしれないが、「サイバーブースター」も「サイバープラグマティスト」も意味がわからず、「ダグラス・ラシュコフ」という人名も初めて聞いた。このへん、訳注を付してしかるべきだと思うのだが、本書には原注はあっても訳注は一つもない。なんとも不親切な作りである。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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