萩尾信也『三陸物語』


三陸物語三陸物語
(2011/09/29)
萩尾 信也

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 昨日は、妻の手術の付き添いで病院へ――。

 年明けに妻が腹痛を訴え、病院に行って検査を受けたところ即日入院となり、昨日の手術となった。詳細は控えるが、我が家にとってはなんとも波乱の幕開けである。
 それで、この一週間バタバタとして、心理的にも仕事がほとんど手につかず、あちこちで停滞が起きている。

 手術も成功して少し落ち着いたので、今日からまた平常営業である。……と、関係各所への業務連絡も兼ねて、ここに記しておく。


 手術が終わるのを待つ間、待合室で萩尾信也著『三陸物語――被災地で生きる人びとの物語』(毎日新聞社/1575円)を読了。

 これは、目利きとして一目置く年長の編集者から、「東日本大震災の関連書ではいちばんよかった」とオススメされた本。

 釜石で少年期を過ごした『毎日新聞』のベテラン記者が、震災直後から現地に身を置いて書いた被災地ルポである。昨年度の「日本記者クラブ賞」も受賞し、続編も刊行されている。

 「うまい文章だとは思うが、ときどき表現が古臭いなあ」というのが第一印象。いかにも「昔の新聞記者文体」というか。
 たとえば、こんな表現。

 元早稲田大学ラグビー部員で市会議員で消防団員、疲れ知らずのタフガイは生きていた。



 いまどき「疲れ知らずのタフガイ」って……。
 あるいは、こんな表現。

 廃墟と化した故郷を前にして滅入る気持ちを奮い立たせるように、たき火を囲んで酌み交わし、共にくゆらす紫煙があってこそ、開いてくれる胸襟もあった。



 これも古めかしい美文調で、いまとなってはクサい。

 ……と、ケチをつけてしまったが、読んでいるうちに内容の迫力に引き込まれ、文体の古臭さは気にならなくなった。

 一章ごとに、一人の人、一つの家族に的を絞った構成。
 著者が釜石育ちであるだけに、取材相手の方言の活かし方が素晴らしい。次のような言葉は、標準語に直してしまったら思いの半分も伝わらないだろう。

「何で津波なんかで死んだんだべ。寒かったべな、苦しかったべな、何を思ったんだべかって。答え出ないのわかってるんですっけ。でも悔しぐて、寂しぐて」



 取材相手の心に分け入り、秘めた思いをすくい取る手際が鮮やかだ。そして、ちりばめられた生と死のドラマが胸を打つ。
 たとえば、こんな一節。

 津波で流れる家の二階で手を振る人の姿が脳裏にこびりついたおじいさんもいた。「あれは、助けてという意味なのか。お別れのさよならなのか」と自問していた。津波から逃げようとした中年の女性は、年老いた男女に「助けて」としがみつかれた。濁流が間近に迫る。「私、ふりほどいて走ったんです。後ろを見たら、二人はもういなかった。手の感触が腕に残っています」。



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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。ライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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