玄田有史『孤立無業(SNEP)』


孤立無業(SNEP)孤立無業(SNEP)
(2013/08)
玄田 有史

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 「餃子の王将」の大東隆行社長の射殺事件から一日が経ったが、まだ衝撃が冷めやらない。私は昨年、まさに事件現場となった本社で大東社長を取材し、ルポを書いたからである。

 大東社長は、すでに多くの方がコメントされているとおり、苦労人で人情味があり、社員一人ひとりを思いやる素晴らしい経営者だった。
 一期一会ではあったが、社長が語ってくれた言葉のいくつかは、いまも耳朶に深く残っている。
 ご冥福をお祈りいたします。


 今日は、都内某所で打ち合わせ。
 行き帰りの電車で、玄田有史著『孤立無業(SNEP)』(日本経済新聞出版社/1575円)を読了。

 先日読んだ『独身・無職者のリアル』(関水徹平・藤原宏美)と同じく、いわゆる「SNEP」(Solitary Non-Employed Persons=孤立無業者)の問題についての概説書である。
 著者はそもそも「SNEP」という概念の提唱者であり、本書のほうがいわば本家本元だ。

 「ニート」が35歳未満の若年無業者を対象としているのに対し、「SNEP」は59歳以下までの幅広い層の無業者を対象とする概念。「Solitary」の語が示すとおり、社会的孤立に陥っていることを重視する概念でもある。

 本書を読むと、著者の誠実な問題意識が伝わってくる。
 著者は「新しい流行語を作って一山当てよう」的な色気からこの概念を作ったわけではなく、「SNEP」の急増(2006年からの5年間で50万人増えたという)を心底憂えているのだと思う。

 だが、著者の誠実さが本としての面白さを保証するわけではない。率直に言って、なんともつまらない本だった。

 本書の分析は、総務省統計局の「社会生活基本調査」をベースに、約3000名を対象とした独自のネット・アンケート調査の結果を加味して行われたもの。ていねいな分析がなされてはいるが、全体に政府の白書のような無味乾燥な印象だ。

 それに、分析結果もなんだかあたりまえのことばかりで、目からウロコが落ちるような点が一つもない。
 たとえば、第4章末尾に置かれた「この章の発見」というまとめの一部を引いてみよう。


2.孤立無業のなかには、深夜も含めて、めったに外出しない生活を送っている人も多い。

5.孤立無業には、中学時代から親しい友人や話をする人があまりいなかったという傾向が見られる。

6.孤立無業は概して貯蓄や財産が十分でなく、強い老後不安を感じている人が多い。



 「そんなこと、東大の先生に教えてもらわなくてもわかるよ」と言いたくなる。
 「孤立無業」という言葉から誰もがイメージするあたりまえのことが調査・分析の結果わかったからといって、何の意味があるだろう? いや、学問的な意味はあるのだろうけど……。

 終盤は孤立無業者に対して立ち直りの方途を提案する内容になっているが、その提案がまたびっくりするほど陳腐で無内容。たとえば、こんな一節がある。

 もう一つのスネップを抜け出す方法は、やはりなんといっても仕事をすることです。さらにもう一つには、結婚するということもあります。ただ、結婚のためには、まず友だちをつくったり、仕事をすることが、大事になるでしょう。



 それがかんたんにはできないから「SNEP」が急増しているのだろうに……。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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