廣中直行『依存症のすべて』


依存症のすべて 「やめられない気持ち」はどこから来る? (こころライブラリー)依存症のすべて 「やめられない気持ち」はどこから来る? (こころライブラリー)
(2013/09/20)
廣中 直行

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 廣中直行著『依存症のすべて――「やめられない気持ち」はどこから来る?』(講談社/1470円)読了。

 医学博士の著者が、薬物依存症、ギャンブル依存症、ネット依存症など、あらゆる依存症のメカニズムと社会的背景、治療法などを一通り解説した本。

 依存症について知りたい人が、この問題の全体像を得るために読む一冊目の入門書として、優れた内容だ。

 “依存症の雑学”を開陳した読み物としても面白い。
 たとえば、「歴史上、最も有名な買い物依存症の人」はマリー・アントワネットだという話や、「アルコール発酵は人類が手にした最も古いバイオテクノロジーである」という話など、思わず人に話したくなる雑学がちりばめられている。

 さらには、「人間とは何か?」なんてことまで読者に考えさせる深みもある本だ。依存症をフィルターにして、人間の本質が活写されているのである。

 たとえば、なぜ依存症になるのかを解説した次のような文章に、なるほどと膝を打った。

 人は依存の対象とたわむれているときに「居場所感」を得られるのではないだろうか。居場所を求める気持ちは誰にでもある。居場所なしでやっていけるほど人間は強くはない。現実の世界に居場所がなく、話せる友人や家族もなく、自分をじっくり見つめる余裕もないとなると、その気持ちは何か別のものに向かっていく。それがたとえば大麻のふんわりとした酩酊感や、パチンコ屋のにぎやかな音や光などではないかと思うのである。
(中略)
 何かが自分にできると思ったり、できないと思ったりする感覚のことを「自己効力感」という。
(中略)
 居場所感がないと、自分の能力を見つめ直す余裕がない。なわばりを失った動物に似ているから、心理的な闘いには負ける。そうなると自己効力感が下がる。
 しかし、誰しも自己効力感が低いままでヘラヘラ笑って満足していることはできない。そこで、かりそめでもいいから、自己効力感を上げてくれるものを求める。(中略)
 自己効力感の低さは、クスリやギャンブルにハマるきっかけになるだろう。一時的に自己効力感が上がるからである。だが、恐ろしいことに、クスリやギャンブルで自己効力感を上げると、本当の自己効力感はますます低くなる。自分を見ているもう一人の自分がいるからだ。借り物の力で乗り切ったということは、本当に乗り切ったわけではない。
(中略)
 自己効力感が低いと、自分で自分を攻撃する傾向が高まる。(中略)それがリストカットや「毒を飲む」といった「自傷行為」につながることもある。
 アルコールやドラッグも、健康をむしばんでいくという意味では、自分への攻撃である。短時間で劇的なダメージを受けるわけではないが、徐々に傷つく。クスリをやるのはまさに「緩慢な自傷」である。ギャンブルへののめり込みや、買い物依存症と言われる行為もそうかもしれない。資産や信用をなくすことも自傷の一種ではないだろうか。



 長々とした引用になったが、この文章には依存症の本質が見事に凝縮されて表現されていると思う。

 心理学や脳科学、行動経済学などの知見を用いて依存症のメカニズムに迫るくだりも随所にあって、それらはいちいち目からウロコ。たとえば――。

 人間の脳は利得より損失に大きな反応を示すことがわかってきた。これは「損を取り戻すためにのめり込む」というギャンブル依存症の心理を考えたときに、きわめて重要な発見だと思う。行動経済学の理論でも、同じ金額なら利得よりも損失のほうが心理的な衝撃が大きいことがわかっている。一万円もらってもじきに忘れるが、一万円失ったら一生覚えている。それが脳の画像解析で裏付けられたわけである。



 著者の文章は平明で、上品なユーモアとウイットにも富んでいて、好ましい。この人のほかの著作も読んでみよう。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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