今枝由郎『ブータン仏教から見た日本仏教』


ブータン仏教から見た日本仏教    NHKブックスブータン仏教から見た日本仏教 NHKブックス
(2005/06/30)
今枝 由郎

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 今枝由郎著『ブータン仏教から見た日本仏教』(NHKブックス/966円)読了。

 著者はフランス国立科学研究センターに勤務するチベット学の研究者で、現在はフランス国籍。ブータンにも10年間にわたって暮らしたことがあり、現在もブータンとフランスを行き来しているという(フランスはチベット系仏教研究の先進国なのだそうだ)。

 本書はそのようなバックグラウンドをもつ著者が、ブータン仏教から見た日本仏教を考察し、日本仏教の特異性を浮き彫りにしていくもの。

 「ブータン仏教」という呼び方自体、我々にはなじみが薄いが、「ブータンは、現時点で大乗仏教を国教とする唯一の独立国であり、チベット仏教圏最後の砦である」という。

 全体に、論というよりエッセイに近いトーンで書かれており、著者の個人的な思い出が占める割合も大きい。ゆえに読みやすいし、肩のこらない比較宗教文化論的エッセイとして楽しく読める。

 日本だけで暮らしていてはなかなか気づかない日本仏教の特異性が、よくわかる。日本仏教を相対化する視点が得られる点で、有益な本だ。

 著者が数多く挙げているブータン仏教と日本仏教の違いのうち、とくに面白かったのは回忌法要の例。回忌法要があるのは日本だけなのだそうで、次のようなエピソードが紹介されている。

 日本人でブータンに縁のある人がいた。その人が亡くなり、日本では十三回忌に当たる年、遺族がブータンでも十三回忌を営んでほしいと、友人を介してブータンの僧侶に相談した。すると、こんな答えが返ってきた。
「あの人は、そんなに悪い人には見えなかったが、何か重大な悪業でも犯していたのか。いすれにせよ、すでにどこかに、なんらかの形で生まれ変わっているから、いまさら追善供養の法要でもないだろう」



 こういうエピソードが楽しいし、著者の日本仏教に対する提言や指摘にも納得できるものが多い。たとえば、次のような指摘――。

 日本仏教にとって、その最初から現在に至るまでの最大の悲劇・欠点は、仏典いわゆる「お経」が日本語に訳されることなく、中国語すなわち漢訳のままであるということであろう。これは、ほかの仏教国がすべて仏典を自国語に訳しているのに比して例外的なことである。




 だが、著者が本書で一貫して示す“ブータンには本来の正しい仏教が息づいているが、歴史の中で大きく変質した日本仏教はもはや仏教とは呼べない”という見方に、私はまったく同意できなかった。
 
 釈迦が古代インドで開いた元々の仏教と、中国・朝鮮を経て日本に広まった仏教は大きく異なっている。それはそのとおりだが、なぜ元々の仏教だけを「本来の正しい仏教」だと決めつけるのか。時代に応じ、その国の文化に応じて変化することの何が悪いのか。

 本書の大前提となっているその点で著者と相容れないので、ときどき首をかしげながら読んだ。しかし、なかなか面白い本ではある。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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