林真理子『野心のすすめ』


野心のすすめ (講談社現代新書)野心のすすめ (講談社現代新書)
(2013/04/18)
林 真理子

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 今日はインド大使館で、駐日インド大使のディーパ・ゴパラン・ワドワさんの取材。
 インド大使館の中に入るのは初めてだが、その豪華さ(建物といい、調度品といい)にビックリ。


 行き帰りの電車で、林真理子著『野心のすすめ』(講談社現代新書/777円)を読了。
 すでに30万部を突破しているという話題のベストセラー。私は仕事上の必要があって読んだ。

 「林真理子初の人生論新書」なのだそうだ。
 無名の若き日から、女流作家のトップランナーとなった現在まで、業界スゴロクを駆け上がってきた来し方を振り返り、野心をもって人生を切り拓いていくことの大切さを説いている。

 さすがに読み物としては面白く、値段分はきっちり楽しませる。
 また、野心をもつことが“はしたないこと”のように思われがちな日本の風潮に異を唱え、“若い人たちがもっと「健全な野心」を抱かないといけない”という著者のメッセージにも、まあ納得できる。
 いわく――。

 「今のままじゃだめだ。もっと成功したい」と願う野心は、自分が成長していくための原動力となりますが、一方で、その野心に見合った努力が必要になります。
 野心が車の「前輪」だとすると、努力は「後輪」です。
 前輪と後輪のどちらかだけでは車は進んで行けません。野心と努力、両方のバランスがうまく取れて進んでいるときこそ、健全な野心といえるのです。



 しかし、本書の端々に透けて見える著者の価値観に、私はまったく共感できなかった。
 たとえば、次のような記述――。

 高校時代のクラスでいちばんの美人だった子が、市役所の人と結婚してごくごく平凡な人生を送っていたり、もったいない美人の例が後を絶ちません。私なら、どれだけ美貌を有効に使ってあげられたか……と歯噛みしてしまいました。



 すごいな、この一節。かりにツイッターでこんなこと書いたら炎上必至である。
 
 林真理子にとって、せっかく美人に生まれながら「市役所の人と結婚してごくごく平凡な人生」を送ることは失敗であり、美貌の浪費なのだそうだ(笑)。
 全国の市役所職員がカチンとくるだろう。容易に個人が特定できそうな記述でもあり、当人たちが読んだらイヤな思いになるだろう。

 このようなツッコミどころは、ほかにも枚挙にいとまがない。次のような一節もある。

 いまの世の中で教育をロクに受けていない人というのは、単に努力しない人だとみんなわかっているから、ちゃんとした男の人は高校中退の女の人にはまず近寄りません。男女が逆のパターンなら尚更です。



 同業者である柳美里(高校中退)や西村賢太(中卒)の前で同じことが言えるのだろうか?

 私が自分は偉かったよなぁと自画自賛してしまうのは、独身の頃は世間から「結婚したいとか言ってるけど、どうせ結婚しないんでしょ」と思われていた中で、実際に結婚したことです。私よりずっと美人で結婚できなかった人がいっぱいいるのに。



 要するに、林真理子にとって結婚「できた」女性は未婚の女性より上であり、美人は不美人より上であり、有名人は無名人より上であり、高学歴で社会的成功を収めた人は学歴のない貧しい庶民より上なのである。

 そのような価値観を持っているからこそ、彼女はがむしゃらに「上」を目指して生きてきた。そして多くのものを手に入れたいま、下々の我々を見て“もっと野心を持ちなさい”と説教(ユーモアにくるんだソフトなトーンではあるが)しているわけだ。

 有名作家が自分の偏った価値観をここまでさらけ出すのはある意味勇気のいることで、その勇気は買おう。しかし、私は「しみじみイヤな女だな」と思ってしまった(笑)。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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