今野晴貴『生活保護――知られざる恐怖の現場』


生活保護:知られざる恐怖の現場 (ちくま新書)生活保護:知られざる恐怖の現場 (ちくま新書)
(2013/07/10)
今野晴貴

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 今日は台風のなか、東銀座で打ち合わせ。出かけるときにはもう雨はやんでいたものの、電車のダイヤが大幅に乱れており、銀座まで2時間もかかった。


 行き帰りの電車で、今野晴貴著『生活保護――知られざる恐怖の現場』(ちくま新書/840円)を読了。

 著者は、若者の労働問題に取り組むNPO法人「POSSE」の代表。彼のブラック企業関連の著書は2冊読んでいるが、本書は“隣接分野”ともいえる生活保護がテーマだ。

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 著者は、労働法を専攻していた大学時代から労働相談を受け始め、現在までに1500件を超える相談にかかわってきたという。相談の中には、生活保護をめぐるものも必然的に多い。本書は、著者および「POSSE」のスタッフたちが実際に受けた相談事例に基づく内容である。

 「知られざる恐怖の現場」という副題は読む前には大げさに思えたが、読んでいるうちに本当に恐怖と怒りを覚えた。それほど、生活保護を求める困窮者に対する行政側の扱いがひどい。

 生活保護をめぐる行政の違法行為といえば、何人もの餓死者を出した北九州市の「水際作戦」が悪名高いが、本書を読むと、同様の事例が全国各地で頻発していることがわかる。

 生活保護の申請を受け付けない門前払いのみならず、受給者へのパワハラやプライバシー侵害、不当な受給打ち切りなどが横行しているのだ。

 本書で例に挙げられている、ケースワーカーによる受給者への暴言。

「生活保護を受けている分際で車を持つとは何事か」
「自殺したいという奴は、自殺なんかしない。心配なんかしない。なんで区役所なんか相談くんの!」
「ホームレスになったら申請できる」



「血管が切れて倒れて、障害が残ったら楽になれるよ」。
 これは、高血圧症を抱える生活保護受給者のMさんが、医療券の受け取りに行く際に、ケースワーカーが言い放った言葉だ。失業中のMさんは月に一度、医療券をもらいに行くたびに、「いつまでももらえると思うなよ」「高血圧でも仕事はできる」などと就労をせかす厳しい言葉を浴びせられている。「楽になれる」とは、障害者になると就労指導の対象者でなくなり、就職活動から解放されるという意味だ。



 父子家庭の父親であるOさんは、千葉県で生活保護を受給しながら、県内外を問わず求職活動にいそしんでいた。彼が就職を急いだのには理由がある。保護を受給し始めて間もなく、担当のケースワーカーから「子どもを孤児院に入れるなら、受給し続けていい」と告げられたのだ。



 また、次のようなひどい事例もある。

 2012年3月、京都府宇治市で母子世帯の生活保護の申請者に対し、異性と生活することを禁じたり、妊娠出産した場合は生活保護打ち切りを強いる誓約書に署名させていたことが発覚した。



 福祉の現場では、母子家庭の母親が男性とつきあうと「腐れ母子」と呼ばれるのだと、以前読んだ『ルポ母子家庭』に書いてあった。本書を読むと、そのような偏見・蔑視がけっして特殊なものではないとわかる。

 生活保護行政の問題点を追及する一般書は多いが、本書はその中でもかなり優れたものだと思った。
 著者は労働法などの研究者であり、貧困問題の現場で奮闘する活動家でもあるから、生保行政全体の構造的問題点を見抜くマクロな視点と、困窮者と「同苦」する現場感覚を兼備しているのだ。

 私自身は、公務員を十把一絡げにバッシングして溜飲を下げるようなことに、強い違和感を覚えるものである。
 生活保護行政の現場でも、本書に出てくるようなひどい連中ばかりがいるわけではなく、困窮者のため懸命に尽くしている公務員も多いはずだ。

 だが、本書はやみくもな公務員叩きの本ではない。違法がまかり通る生活保護行政の現場を冷静に告発し、そうした違法を生む構造にまで迫った本なのだ。

 近年の「生活保護バッシング」が、行政の暴走を後押していることも浮き彫りにされている。
 たとえば、生保受給を希望する人に申請書を渡すことを拒否した舞鶴市役所の担当者は、そのとき「生活保護バッシングの中で市民の声があるから遠慮してくれ」と言ったのだという。

 ブラック企業を冷徹に追いつめてきた著者が、同じような冷徹さで生活保護行政の暴走にメスを入れた本。問題の根っこまでがよくわかる良書だ。

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前原政之 
イラスト/ジョージマ・ヒトシ

前原政之(まえはら・まさゆき)
1964年3月16日、栃木県生まれ。53歳。
1年のみの編プロ勤務(ライターとして)を経て、87年、23歳でフリーに。フリーライター歴30年。
東京・立川市在住。妻、娘、息子の4人家族。

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